生手癖
のっぴきならない理由から街を離れ、永いこと悪友と顔を合わせていなかった俺が、久々に街に戻り家へと挨拶に行くと、ドアの鍵は開けられたままで奴は飲んだくれていた。
勝手に入り込んで、様々な物が乱雑に乗せられているテーブルを叩く、瓶やカップが触れ合って賑やかな音を立てた。すると目を覚ました奴が泡を食った表情で目を覚まし、俺の顔を覗き込んだ。
「なんだ、お前か、久しぶりじゃないか」
奴は相手を確認して落ち着いたのか、妙に冷静になる。
「それよりお前、無用心だと思わんのか、鍵を開けっ放しで寝たきりなんて、襲ってくれと言っているようなもんだろう」
忠告を涼しい顔で受け流して、器用に左手だけでポットのコーヒーを二つのカップに注ぎ、一つを引き寄せるとブランデーを数滴垂らし入れ、一人でコーヒーを飲む。
「いいんだよ、防犯は万全だから、それよかお前こそ財布の心配したらどうだ」
そう言われて俺は自分の懐の財布が無くなっていることに気がついた。いつの間に、そう考え焦るが、スリの常習犯だったこいつは、昔から手癖の悪い奴だった。きっと今の隙に何かしら仕掛けて、すったに違いない。
「おっと、そう怒るな。俺の手が勝手にしたことだから、俺を怒るのは筋違い」
そう言って奴は両手を上げる。これがいつもの常套句、昔からこいつは仲間の持ち物をするたびにそう言い訳した。意思が無くて物がすれるものか。
「またそれか、全くお前は変わってないな」
「冗談だろ、俺は変わったよ。今じゃすりはしてない。外じゃあな」
奴が左手を右手首に添えて軽くひねると、右手首が外れた。
「ほらな、これじゃすれないだろ。これで信じてもらえたか」
そう言い、義手をほおると左手でドアの後ろをさした。
ドア下には銃が置かれている、ドアノブに巻かれた鎖の先に干からびた右手が繋がれていて、それが俺の財布を握っていた。




