金魚火
年に一度の歳徳焼きの日、門松や注連縄、書き初めが竹にもたれて燃やされる。
あみは今年も枝の先に餅をつけ、子供らに混じり楽しみにやって来た。
木が爆ぜる音、書き初めの上を炎が舐める、空に煙が立ち登った。
あみが餅に火を入れる、枝が燃えないようにとあやうげな手つきでまたたく火炎に近づける。
すると枝先にちろりと火が舞った。舌先のような炎の花弁が餅の周りをひらりと游ぐ、その度餅の肌がちりりと焼けて膨らんだ。
「これ食べたら、今年も元気でいられるよね」
あみの母が、隣で微笑むようにしてそれを見ている。父が餅を手にして子供達をかき分け、あみの横に立った。
あみは枝を手元に寄せると服の袖を折り曲げて熱そうに餅を取り上げる。そして大事そうに布に包むと懐に入れた。
「あったかい、これ食べたらお母さん、元気になるかな、きっとなるよね」
父が新しい餅を枝につけかえて、再びそれをあみが炎にかざす。赤い金魚が炎から離れ、くるくると餅にまとわりついた。
「みてみて、おもちのまわり、お空を金魚がね、泳いでるよ、お母さんの大好きな金魚」
夜の闇の中で赤々と浮かび上がる父の顔が涙を湛えていた、ぼろぼろと溢れる涙が橙色に光り、線香花火のようにあみの目に映りこんだ。




