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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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呼び水


 あの子、悩んでいたんです。夏の日の水難事故で友達を亡くしてから強迫観念にとらわれて、自分は追われている、逃げ場所なんてどこにもないって口癖のようにもらしていました。


 心の病だと診断されてからあの子は、顔を合わせる人、全てが自分を病人扱いしている、そんなふうに思い込み、誰からも自らを遠ざけ、治療を一層難しいものに変えていました。


 けれど、最近は良い兆候が現れていたんです。友達の存在を感じたって、そんなことを私達につたえて。


 外の世界を出歩けるようにまでなったんです、内側に閉じ篭っていた意識が外に向き始めたってお医者様が仰って、私達は治癒の見込みが現れたと喜びました。


 変わらず他人とは目を合わせることも、話すこともできませんでしたが、それでも大きな一歩でした。



 外出とはいってもGPS携帯を持たせ、私達付き添いでの日々だったのですけれど、あの子は楽しそうでした。不思議なことに、行ったこともない地域を迷わず進み、廃屋や、手入れの行き届いていない墓地などをみつけてはその場に残る事を好みました。


 人のいない寂れた空間で読書をしたり、独り言を呟いたり。別の病状が発症したのかと、些か心配していたのですが、閉じこもっていた頃を思うと、お医者にかかることを強制できませんでした。


 今考えると、あの行動は失踪の予兆だったのかもしれません。



 暑い夏の日のことでした、陽炎が立ち、追い水が坂上に揺れる道で、坂向こうから流れ来る雲の影があの子に追いついた時、あの子は何か、空に向かって思い切り叫ぶと走り出し、そのまま追い水に混じり合うようにして消えてしまいました。


 これまでにそんなことは一度もなかったのです。私達は慌てて、追いかけたのですけれど、何もかもが遅すぎました。


 なにも手掛かりは無く、坂の上では水がアスファルトの上で延び広がるような跡を残すばかりでした。



 あの子は死んでいません。私達は、諦めていません。これまでに行った事のある墓地や廃墟に時折、GPS装置の反応が残るんです。

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