霊像庫
「ねえ、憶えている? 昔さ、小学校の頃通学路の途中に空き地があったじゃない」
「え、空き地? えと、それってどんなだったかな」
「やっぱり憶えてないか、ほら、真ん中に壊れかけた冷蔵庫ががぽつんと置かれた空き地」
「あれ、そういえば、ああ、端にタイヤが積み上げられてて」
「そうそう、その空き地。それでさ、良く学校帰りであの空き地に寄って遊んでたでしょ」
「え、そうだったかな。あ、でもそうかもしれない。あのタイヤの上に登ったりして」
「ね、そうでしょう。私も全然思い出せなかったんだけど、この間ちょっとね」
「ちょっとって何があったの?」
「冷蔵庫、あったでしょ。見たの」
「見たってどこで?」
「憶えてない? あの頃開けて中を見たでしょ、担任の先生が亡くなる少し前に」
「開けた、そうか、そうかもね。中に何が、ああ、あれ」
「電気通じてないのに、ひんやりした風が吹いて、中にはしわしわの顔、干からびた茶色の、ほら、思い出した?」
「ええ、嘘。なんで忘れてたんだろう」
「あの頃流行ったコックリさん、やるたびに中の顔が変わるのが面白くて、そしたら最後に怒った先生の顔が、驚いでみんな放り出して逃げちゃったでしょ」
「でも、でも夢だったんじゃ。次の日には無くなってたじゃない」
「あの場にいた全員が同じ夢なんて見るはずがない」
「それはそうだけど、あれから何も起こってないじゃない」
「だから、起こったの。私見ちゃったの、ほら、最初に開けた男の子がいたでしょ」
「ああ、彼なら先月あったけど、そういえば最近見ないね」
「この間偶然見たの、空き地じゃなくて河川敷でね、古びて錆のかかった冷蔵庫でどこかで見たことあるなって」
「ええ、まさかあの冷蔵庫? それで、中覗いてみたの?」
「だって気になるでしょう、そうしたらね。中には先生と彼の顔が。だから彼も、もう」