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怪壊塵芥  作者: 黒漆
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啼き仏


 今でも火加減は重要、昔に比べりゃ楽だがね。こう、喉の仏さんを焼かずに残す加減が、慣れない者にはわからんでしょう。


 身長体重、年齢健康、それによって燃えやすいかどうかもまた変わりますからね。


 それと、現世に未練が残ってる人は燃え難い、ありゃあなんでしょう、きっと最後の抵抗なんでしょうなあ。



 かつての火葬場じゃあ、煙が登ることもあったが、最近じゃ出ないように改良してるからね。


 思いを残さず逝けた人は煙が真っすぐ登るって話もあったでしょう。今じゃこうしてそばに立って焼く側の私らじゃないと煙の出方なんぞわからんだろうね。


 まあ、未練があるとわかったところで言えやしないんですが。



 火葬場の前は街にひとつはさんまいって名前の火葬施設が有りましたわな。


 今じゃあ知ってる人も余りいないでしょ。


 ちょっとした焼却炉のような大きさでね。昔じゃどの家もゴミは自分の家で焚いていた。今じゃできませんがね。


 それでも流石に仏さん焼くわけにゃいかないって事で、町に一つ仏さん用の小さな焼き場を用意してた、それがさんまいですわ。


 町によって違っていて、膝を折らずに全身収まるものもあったんですが、俺の知ってるのはこう、膝抱えるようにして仏さんに入っていただかんと、どうにもならんような狭いもんで。


 硬直した後、遺体の体勢を変えるのには苦労しました。それでね、薪を焚き上げるとなんとも言えない臭いがしたもんです。



 燃えにくさも勿論あるんですが、こう、生前快く、苦しまずに逝った人はさんまいで焼くと骨がきんっと、良い音で鳴るんですよ、金物に熱を加えて叩いた時のような、涼し気な音でね。


 逆に未練があると生木をひねるような嫌な音がする。


 俺はね、あのいい音がもう一度聴きたくてこんな職に着いてんですよ。


 しがない人生でも、あの音を聞くと悪くないなって思えるんです。耳に居着いたその音がね、どんなに小さくても、火葬装置に防音措置施されてても、火葬場にいると聞こえるんだ。


 しかしね、最近じゃああの綺麗な音が中々聞けなくなっちまった。


 まあ、そんな時代なのかもしれませんな。


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