嘘憑の仮面
「ちょっと、前から聞きたかったんだけどそれって何?」
「何って、塩だけど」
「それは知ってる、私が聞いてるのはなんで顔に塗るのかってこと」
「なんでって、お前だって薄々は気づいてんじゃないの?」
「それって、何かいるとでも言うつもり?」
「いる、と言うより来るって言った方が正しいかな」
「またそんなこと言って、どうせ嘘でしょ、怖がらせようとして。で、何があるの?」
「嘘ね、確かに俺は嘘つきだった。嘘をつき過ぎて、生きていくのが疲れちまうくらいの嘘つきだった」
「何? 突然どうしたの」
「いや、過去の話だ。俺はね、詐欺師だったんだ。人間の弱み、情けや義理ってやつにつけ込んで人を騙す。高額商品売りつけたり、不法な金額を請求したり。普段の生活も職業を偽って女を騙したり、答えられない程の事してきた」
「嘘、でも今は普通に働いてるよね。遊びもしないし真面目なのに」
「嘘ってのはつけばつくほど体が重くなるんだよ。一度ついた嘘は体に染みついて剥がれない。全部捨ててゼロになるまで体の芯に重石のようにつきっぱなしだ」
「昔のことでしょ、今は違うって」
「違わない、根本的な所じゃ人間そんなに簡単に変わないんだよ。だから俺は置いてきたんだ、嘘憑の仮面についた嘘を貼りつけて」
「何それ、仮面って、もしかして」
「なんだやっぱり知ってるんじゃないか、面白いとは良く言ったもんだ。目も鼻も口もない白い面を俺の顔型で作って貰うんだ、そいつをある場所に安置してもらう」
「嘘でしょ、毎晩見るあの夢って」
「夢じゃないんだよ、顔が戻りたがるんだとさ、剥がした嘘が戻ってくる。だから俺は塩を塗るんだ、そうすりゃ面は貼りつけない」
「なんで黙ってたの?」
「なんでかって、俺はもう嘘はつけないからさ。嘘は全部仮面の中に置いてきた、言いたくなけりゃ黙ってればいい、それだけだ」
「私のことが好きだといったのも嘘だったの?」
「それは嘘じゃない、今言っただろ、嘘はつけないと」
「じゃあ聞くけど、本当に付き合ってるのは私だけなの」
「あ、それはお前、決まってるじゃないか」
「はっきり言えないの? 面が割れたね」