21.「少し、昔話をしよう」
波乱の一日もそろそろ終わろうとしている。
ぐったりと疲れ切ったユーグは、王立薔薇園の緑濃い夜気の中を歩いていた。気は進まないが、女ダヌキ、メリザンド・メイエと話さねばならない事柄があるからだ。
歓楽街での事件を収め、リッカとあの小僧を王立薔薇園に送り届けてから王城に報告に赴き、部下への指示を済ませる。一文にまとめられる行動に、いったいどれほどの労力が費やされたか。……気苦労の原因は赤と桃色をした忌々しい二人組のせいなのだが。
「……何度、斬り殺してやろうかと思ったことか……」
非常に不穏なセリフを吐きつつ、ユーグはゆっくりと重厚な木製のドアをひいた。
使用されていないはずの豪奢な館である。大理石の床には薄く埃がつもり、幽霊の居城のような雰囲気をかもしていたが、まるでユーグを導くように一つ二つと灯りがともっていた。灯りに従って進むと、蔓草の紋様が彫り込まれた扉の前にいざなわれる。
扉を開いてみると、中には意外な人物がいた。
「アルシバル。なぜお前がここにいる?」
もとは会議室にでも使われていた部屋なのだろう。巨大な長方形の机が部屋を埋め、規則正しく椅子がそれを取り囲んでいる。明々とした炎を掲げる燭台が、二人の人物を浮かび上がらせていた。
ひとりはあいかわらずの男装姿のメリザンド・メイエ。ユーグをここに呼び出した張本人であるから、この場にいるのは当然だ。問題なのはもう一人の方。メリザンド・メイエから二席分空けた椅子に端座している、紫騎士アルシバル。
奇妙なことに二人はまったく同じ色合いの瞳をしていた。薄暗闇に紫の双眸が二対、燐光を放つさまは、ユーグの心胆を寒からしめるのに充分な不気味さだ。
「時は来たれり。闇に葬られし昔日の真相を語るに、今宵ほど適した夜はない」
「……いつに増して意味不明だぞ、アルシバル」
年下の同僚はガラス玉のようにがらんどうな目を、ただじっとユーグに据えている。その横で珍しく無表情なメリザンド・メイエが口を開いた。
「そのままの意味だね。白騎士殿には真相を知ってもらう必要ができたんだよ。グリフォンがまだ生きていて、舞台に引きずり出されてしまった以上はね」
その声に、ユーグは非難の色を感じ取った。11年前、ブルシュティン公国奪回戦のおりにあの化け物と相対しながら、仕留め損なったことを責められているのかとも思う。
「ああ、勘違いしないでほしいな白騎士殿。我が輩たちには君を責める資格なんてない。責めたい気持ちもあるが、それはもう八つ当たりというものだね」
「……我が輩『たち』だと?」
「まずは前提から話そうか。我が輩たちはね、きょうだいなんだ。我が輩が姉で、アルシバルは弟。腹違いでもない。両親共に同じだ」
ユーグは目を見開いた。
そのようなことは噂にも聞いたことがない。メリザンド・メイエの経歴には確かに不明な点が多いが、アルシバルは武門として高名な男爵家の一人息子のはずだ。
驚愕の眼差しを向けるも、とうのアルシバルはいつもの通り、人形めいた無表情のままである。
「それからもう一つ、前提となる事実がある」
メリザンド・メイエが言うと、役者が決められたセリフをつぶやくようにアルシバルが続けた。どこまでも透明でありながら、どこまでも感情のない声音で。
「あのグリフォンは我が双子の弟だ」
******
少し、昔話をしよう、とメリザンド・メイエは語り始めた。
ドゥルリアダ王国、南端の地にグレイストーンという土地があった。
ヒースの花咲く荒れ地に巨石を組んで造られた遺跡があるほかは、どうということのない土地だ。領民の大半は羊を飼い、貧しい土地を耕作して、細々と暮らしていた。
グレイストーンを治める領主には美しい妻と、一人の娘がいた。
妻の名はジュネヴィーヴ。いと白き肌にアメジストの瞳、陽光をつむいで巻き毛にしたような金の髪の、女神のように美しいと評判の美女であった。
一人娘が十歳の時に、ジュネヴィーヴは再び懐妊した。年の離れたきょうだいができると娘も喜び、夫たる領主も出産を心待ちにしていた。
王城から思いもかけない報せがきたのは、懐妊がわかってすぐのことである。
『領主の妻、ジュネヴィーヴはすぐに宮廷へ出仕するべし』。……理由もなにもかもが不明な、不気味きわまる内容であった。
領主は悩みぬいた。身重の妻にこのような負担を強いることなどできない。だが、絶対的な為政者である国王に逆らうことなど、貴族の末席にかろうじてついているだけの身分では、とうていできるはずもない。
結局は、夫の苦渋を悟ったジュネヴィーヴが、自ら進んで迎えの馬車に乗り込んだ。まだ幼い娘の頭をなぜ、『お父様をよろしく頼みますね』とだけ言って。
ジュネヴィーヴはおそらく帰ってこられぬ可能性を覚悟していたのだろう。
しかし、彼女は帰ってきた。臨月の腹を抱えて。
宮廷でなにがあったのかを夫が尋ねると、ジュネヴィーヴは困惑しながら語った。
『この数カ月、およそ考えられる限りの丁寧な扱いを受けたと思います。豪勢な部屋を与えられ、生活の一切は宮廷づきの侍女が見てくださいました。……ただ、一つだけ、とても奇妙で恐ろしく思われたのは……日に一度は真っ黒な霧で満たされた部屋に入り、時を過ごさねばならないことでした』
とても短時間で済む日もあれば、半日もいるような日もあったと言う。
領主はつらい思いをさせたと妻に詫び、二度と尋ねなかった。娘は母が帰ってきたことを喜び、前にもまして甘えるようになった。
そうしてジュネヴィーヴは双子の男児を産んだ。そっくり同じ顔かたちをした、元気な赤ん坊たちである。母や姉と同じ金の髪と紫の瞳をしていた。
領主も男児の誕生を嬉しく思い、しばらくは親子五人の幸せな生活が続いた。
その生活が一変したのは、双子が五歳の誕生日を迎えようというころ。
双子のうちフィンレイと名付けられた男児が、突如として苦しみ出した。触れれば火傷を負いそうなほどの高熱を出し、うめいてうずくまる。すぐに医者が呼ばれたが原因は分からず、家族はつきっきりでフィンレイを見守るしかなかった。
王都から怪しげな使者が来たのは、異変から数刻もしないうちである。
「実験結果を確かめに来ましただけなので」
そう細い目を更に細めて笑う、神経質そうな男だ。護衛の兵士を一個小隊ほど従えていた。
そうして、その夕方……不思議なほど大きい満月が昇ると、フィンレイの身体は化け物に変じた。家族はみな眼を疑った。幼い子供の身体がとつぜん膨張し、黒い霧のようなもので包まれたかと思うと、次の瞬間には化け物となっているのである。
唖然とする一同を無視して、手を叩く者がいた。使者の男である。
『これはこれは……素晴らしい! まこと紋章に描かれるグリフォンそのもの。なんとまた美しい化け物ですねぇ。陛下もさぞ、お気に召すことでしょう』
無言のうちに兵士たちが動き、針を刺すとグリフォンは動かなくなった。痺れ薬か眠り薬か。とにかく動かなくなった巨体に別の兵士たちが手際よく縄をかける。
領主が声を荒げた。息子になにをする、と。
使者の男は意外そうに目を見張る。
『コレを息子と呼びますか? コレは美しき化け物ですよ。あなたの息子ではなく、陛下のものだ。……ああ、そういえば双子だったはずですが……そう、その子』
ぴっ、と領主の無事な方の息子を指差し、にんまりと目を細める。
『その子も念のため連れて行きましょう。定刻に変化しなかったとはいえ、万一、ということがありますからね。もちろん逆らえば、反逆罪が適用されますが……どうします?』
領主が逆らうとはまったく考えていない笑みだった。この男にとってはドゥルリアダ国王が絶対であり、その意向を伝えた以上は逆らう貴族がいるはずもないと思っているようだった。
そして領主は……。
******
「領主……我が輩たちの父は端的に言えばフィンレイを見殺しにした。妻と二人の子供だけをつれて逃げたしたんだよ。そうしてシェーヌに亡命する際、父は命を落とし、母も後を追うように亡くなった。もう15だった我が輩はフレデリク陛下に保護を願い、まだ5歳だったアルシバルは子のない男爵家に養子として引き取られたってわけさ。実子と偽れるよう、細工をしてね」
メリザンド・メイエはそう締めくくった。
絶句していたユーグは、ほとんどうめくような声で尋ねる。
「……あの戦で使われた化け物は全て、そのように造られたというのか?」
「おそらくね。母の証言や調べた限りでも、かなりの数の妊婦が城に集められていたことが分かっている。黒い霧……瘴気と呼ばれるものは、胎児になんらかの影響を及ぼして、化け物に変じさせるらしい。かなり不確実な方法のようだけれどね」
腕を組み、瞑想でもしているようだったアルシバルが沈黙を破った。
「我がなぜ化け物に変じずに済んだか、委細は分からぬ。双生児であったからには条件に差異は皆無であったはずだが」
ユーグには返す言葉が見つからなかった。この年下の騎士が抱えている闇の一部が、初めて見えた気がした。自分もいつか化け物と変わるかもしれない、という疑念を振り払えないということは、どれほどの苦痛が付きまとうものだろうか。
ユーグは一度目を閉じると、あえて冷静な声で言った。
「11年前、兵器として投入された化け物に類似性がなかった理由は分かるか?」
今でも覚えている。戦場の血生臭さを、死にゆく人々の絶叫を、シェーヌの兵を次々に屠り牙や爪を血に濡らした化け物たちの姿を。
化け物たちはその全てが、まったく異なる姿を有していた。
双頭の巨狼や、翼をそなえ鱗で覆われた大山羊、虎と蜥蜴を混ぜ合わせたような四つ足の化け物。その他の全てが、既存の動物を無分別にこねくりまわし、歪に仕立て上げたような姿をしていた。あのグリフォンのように、すでに想像上の存在としてあり、名前のついている化け物の方が稀だったほどだ。
(あれら全てが、元は人の子供であっただと……)
奥歯を噛みしめるユーグに、淡々とした答えが返る。
「どうやら変じた後の姿には規則性はないらしいね。全て人間をもとにして造られたようだよ」
研究報告を読み上げる学者然としたメイエ所長の声が、ユーグの神経を逆なでした。おぞましい事実を告げながら、なぜ、そうまで平静でいられる。そんな怒りが湧きあがりかけ、どこまでも暗く凪いだ海のような紫の瞳によって瞬時に冷却された。
(……ああ、なるほど……この女ダヌキにとっては『踏まえてしかるべき前提』に含まれるわけか)
たとえ実の弟の身に起きたことでさえも、情報の一つとして割り切る冷徹さを持たなければ、異国の地で諜報機関の幹部にまで昇り詰められるものではない。その地位を求めたのは、ドゥルリアダ王国への復讐心ゆえかとも思ったが、完全に表情を消したメリザンド・メイエからはどんな感情も読み取ることはできなかった。
「俺にこの事実を話した理由はなんだ?」
「その問いに答える前にまず、なぜ今までドゥルリアダがあのグリフォンにリッカちゃんをさらわせなかったか分かるかい? 空からかっさらってしまえば一番簡単なことなのに、だ」
「それは……グリフォンに理性が残っていないからではないか? 生かしたまま人をさらうことができるとは思えん」
「ご名答。実際のところ、今回もリッカちゃんが巻き添えになるのも構わずに、グリフォンは急降下してきて白騎士殿を攻撃した。一度放たれてしまえば、鷹狩りに使う猛禽類と同じなのではないかなと思うよ。獣性が勝り、ただ獲物を追いかけて殺戮する。細かい指示は利かない」
「先の戦から、あのグリフォンたちをどう操っているのか不思議だったが……」
「傀儡の術というものがドゥルリアダにはあるらしいね。人間や大きな獣を、自分の意のままに動くお人形に変える術だとか。グリフォンが手元にいる間は、その術をかけているんじゃないかな」
ユーグは腕を組み、しばし黙考する。
夕方の襲撃がまざまざと脳裏に蘇った。グリフォンが急降下してきた際、とっさの判断でリッカを突き飛ばしていなければ、まず間違いなく鋭い蹴爪が彼女をえぐっただろう。
ドゥルリアダ王国はリッカを生け捕りにすることに固執していたはずだというのに。
「……連中はじれて、手段を選ばなくなってきたということか? リッカの生死も省みないほどに」
「それは間違いかな。連中、たぶんグリフォンからは白騎士殿が守ると踏んでいたんだと思うよ。嫌な信頼のされ方だね。で、その隙に暗殺者たちがリッカちゃんをかっさらう、と。そういう算段だったんじゃないかな」
「……迷惑な」
「うん、まったくだ。だけど、今回の件で事情が変わった。……まさかドゥルリアダが化け物という強力な兵器を温存していたとはね」
そこでメリザンド・メイエはいったん言葉を切った。目を細め、なにかを思い煩う表情となる。瞳の色が深くなって、ほとんど黒に近い暗い暗い紫にかげった。
「我が輩の調査では、ドゥルリアダはもう化け物を有していないと踏んでいたんだ。どうやら化け物の製造は20年ほど前のある時点でしか行われていない。化け物の絶対数も少ない。11年前のブルシュティン戦役でそのほとんどが倒されて以来、いくどかあった小競り合いにも引きだされてきてはいなかったからね」
「……ところが俺が仕留め損ねたグリフォンが現れた」
「そう、よりにもよって我が輩の弟、フィンレイ『だったもの』だ」
平坦とさえ言える声だった。
だがユーグの背筋をぞくりと嫌なものが駆けあがった。皮膚が粟立つ。寒気を覚えたのだ、と一瞬ののちに理解した。
得体の知れない食虫花のような女が口の端をつり上げる。
「白騎士殿。君の勇猛を我が輩は知っているよ。誰もが恐怖にひるんだ化け物に、敢然と立ち向かい、幾多の武勲をうち立てた。十六という若さもあいまって、君は英雄に祭り上げられた。……もしあの時、真相を知っていたとしてもなお、君は迷いなく戦うことができたかい?」
底知れぬ暗い瞳を、ユーグは真っ向から見据えた。
問いの意味を知ってなお、ユーグの瞳は揺らがない。誰も踏破することのかなわぬ氷原の銀雪を思わせる、銀色の瞳。
「ああ。俺は躊躇なく化け物を屠っただろう。その正体がなんであれ、敵として戦場に現れたものならば」
脳裏にこびりつく赤い光景。
王命を受け騎士として戦場へ赴き、人智を超える化け物に紙くずのように切り裂かれる兵士たちを見た。
ドゥルリアダに国を蹂躙されるわけにはいかない。
その思いが胸にある以上、ユーグは化け物の真実を知ろうとも、戦うことをためらわなかっただろう。
「……なるほど、ね。アルシバルの買いかぶりすぎ、というわけでもない、か」
「なんだと?」
「いやいや、こっちの話さ。では話を元に戻そうじゃないか。『俺にこの事実を話した理由はなんだ?』だったよね?」
不穏な空気を一瞬で散らせて、メリザンド・メイエは微笑んだ。いつものごとく内心の読めない、女ダヌキの微笑みである。
「端的に言えば、いっそうの警戒が必要となったと言いたいのさ。グリフォンが生きていた以上、まだ何体か化け物を隠し玉として持っている可能性があるからね。だから我が輩はこの話をリッカちゃんにもした」
最後のセリフに、ユーグの時が止まる。
目の奥で一瞬白い光が瞬いて、なにも考えられなくなる。思わず耳を疑った。それぐらい予想外な話だった。
「なん……だと……?」
「事態はリッカちゃんに隠し通せるレベルを超えている。その上、リッカちゃんがどうも勘づいちゃったみたいでね……我が輩に尋ねてきたんだよ。だからリッカちゃんには自分がドゥルリアダに狙われていることを伝え、我が輩の事情も伝え、名無しの影の存在を伝えた。これで護衛役とリッカちゃんは連絡を取り合えるし、夜にはたとえ王立薔薇園の中でも出歩かないとか、色々な注意をすることもできた」
「……それは、あいつを今日、囮として使ったということも話したということか」
「無論だよ。だから白騎士殿もリッカちゃんに色々と説明した方がいいんじゃないかな。我が輩は君の事情や心情まで言っていないからね」
「…………っつ!」
椅子を蹴ってユーグは立ち上がった。育ちが良くて所作が洗練されている彼にしては珍しい、荒々しい動作だ。
銀色に燃える目をメリザンド・メイエに向ける。
「今日の話は、それで終わりか?」
「そうだね。ああ、ちなみにリッカちゃんに会いたいんだったら、護衛についている名無しの影に頼むと良いよ」
ユーグは無言できびすを返す。
鋭い足音を立てて、部屋を出ていく白騎士をきょうだい二人が見送っていた。
******
「さあて」
椅子をぎっと軋ませて、メリザンド・メイエは軽く伸びをした。しなやかな肩のラインで金髪が波うち、薄暗い部屋に淡い光を投げかける。
「本当にこれで良かったのかな、アルシバル? 白騎士殿はずいぶんと衝撃を受けていたようだったけど? 使い物にならなくなったら、それこそ困る」
アルシバルという名前もメリザンド・メイエという名と同じくシェーヌに来てからの偽名なのだが、彼女は弟の本名を長い間呼んでいない。二人にとってドゥルリアダでの名は捨てたものだからだ。
本来であれば姉と似通った金髪を持つ弟は、染色した紫の髪をなでつけ淡々と返した。
「白騎士ユーグ・シャルダンが信奉しているのは形骸の騎士道ではない。女子どもをただ盲目的に守れという絵空事の理想主義を、奴は信じていない。ゆえに姉上の発言は杞憂に終わろう」
姉は驚いて、何度かまばたきを繰り返した。アルシバルがこれほど他人の内面について深く語るのを、初めて聞いたからだ。いつの頃からか英雄叙事詩をまねた大仰な言葉遣いをするようになった弟は、無表情の下に本音を隠し、周囲から距離を取るようにもなっていた。
他人に深く関わらず、他人を深く踏み込ませない。
自分の本音など、絶対に悟らせない。
(……我が輩と同じ風になってしまったのかと思っていたけれど……案外、そうでもなかったようでなによりだね)
気持ちとしては嬉しいのだが、かなりくやしくもあるので、わざと意地の悪い声で言ってやる。
「買ってるんだねぇ、白騎士殿のこと」
「……客観的な評価だ」
どこか憮然として聞こえた弟の声に、姉は肩をゆらして笑った。
「姉上の方こそ、リッカ・サイトーにまで真相を話した理はなんだ?」
逆襲をされてメリザンド・メイエはぴたりと笑いやんだ。
手を顎にあてて考えてみると、どうにも不合理な答えが出てくる。
「……たぶん嫌われたくなかったんだろうね、リッカちゃんに。身勝手だとは重々承知しているけれど」
そう、勝手すぎる。
彼女は苦笑したくなった。
ドゥルリアダに勝つためには手段を選ばず、リッカを囮に使うことを提案した。自分が非情なのはよく分かっている。しかし、それでも……。
「好きな人間に、嫌われるのはきついからね」
「確かに勝手な話ではあるな」
弟の知ったような口調に、こづきたくなるのを彼女は我慢した。




