第3話
よく分からない脅迫(?)を受けて、ヴァルハードは、とりあえずもっとリアから話を聞きだすことにした。
……自分を怖がらない相手と話すのは、そりゃもうものすごく不本意だったが。
「とりあえず聞くが、その紙は何だ?」
「これ?おじいちゃんからの手紙。」
「ちょっと見せてくれないか?」
「いいよぉ〜、はい♪」
リアは、あいかわらずうれしそうにニコニコとヴァルハードを見ている。
ヴァルハードは、なるべくリアを見ないようにしながら手紙に目を走らせた。
『リアへ(遺言書)』
なんか、いきなりかっこ書きですごい事書いてありますけどっ!?
遺言……ってことは、リアのじいさんは死んだのか。
孫に読みやすくするためか、ひらがなの比率が高く字も大きい。
だが、うねるような癖字なのでヴァルハードはいらいらしながら読み進める。
『おじいさんは、おまえにわたしたいものがある。それは、おまえの新しい家族だ。
わしがいなくなってもさびしくならないようにな。
名前は、ヴァルハード。わしが若いころ封印した悪魔だ。
といってもちゃんとおまえが召還できるように、制御がかかっているからそこは安心していい……』
まだ続きがあるようだが、これでだいたい状況が読めた。
ヴァルハードは大きくため息をついた。
「……お前のじいさんの名前は、クラウドとか言う名前じゃなかったか?」
リアは目をまん丸にして、ヴァルハードを見た。
「そうだよっ!なんで知ってるの?」
(あ゛ぁっ!!やっぱり、あのいまいましい小僧の孫かっ!!
ってことは、俺様は数十年封印されてたってことになるな。)
人間にとっての時間に比べればたいした事のない年月だとしても、ヴァルハードのプライドを傷つけるには十分すぎる長さだ。
リアを改めて見ると、目の色がクラウドにそっくりだ。
(くそっ!!なんか、ものすごく嫌になってきた。)
「ねぇねぇねぇ!おじいちゃんの事知ってるの?」
「あぁっ、もう、うるさいなっ!!くそっ」
ヴァルハードは、犬の姿で器用に舌打ちして無邪気にはしゃぐリアに悪態をつく。
すると、リアは緑の大きな目を潤ませながらヴァルハードをすがるように見つめた。
「ねぇ……ヴァルハードは、あたしの事嫌い?」
「う゛……そんな目で見るなよ……。」
昔のヴァルハードなら、ここで罵詈雑言を吐くところである。
ところが、今は悲しいことに心も多少犬化しているらしい。
「……分かったよ。とりあえず家族にはなってやる。」
リアは、目を輝かせてヴァルハードに抱きついて黒い毛並みに頬ずりをする。
(ふん……。元の姿に戻ったら、絶対にこの手で切り裂いてやる。せいぜい今のうちだけ楽しむんだな)
ヴァルハードは、肩に回った腕を振り払いながら、犬のくりくりとした瞳で精一杯リアをにらみつけた。