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【コミカライズ原作】推し建築家と恋、建設中です。  作者: 和泉


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8/12

08.その笑顔は反則でしょう?

 そのあとの会話は全くわからない。


 ……ドイツ語?

 「こんにちは」がグーテンタークだった気がするけれど、グーテンモルゲン?

 仕事の電話ならお邪魔しちゃいけない。

 由紀はペコリとお辞儀をすると、貸してもらう部屋へと戻った。


 スマホを取り出し、グーテンモルゲンとカタカナで打ってみる。


「やっぱりドイツ語だ」

 律さんはドイツの仕事をしているってこと?

 ドイツの建築家?

 だからドイツの雑誌があったってこと?

 

 もしかしてリッカと知り合いかな。

 ……さすがにそんなウマい話はないか。

 

 由紀は少ない荷物をスーツケースから出し、部屋のクローゼットに片付けた。

 リッカの雑誌の保管用はもちろん日があたらないところ、もう1冊はいつでも閲覧できるように本棚に並べる。

 だが、あっという間に荷物が片付いてしまい、すぐにやることがなくなってしまった。


「入るぞ」

 ノックの音とともに、扉が開く。


「説明中に悪かったな」

「いいえ。お仕事の時間中なのにすみません」

 由紀は眺めていた雑誌をパタンと閉じた。

 もちろん最近ずっと持ち歩いているリッカの商業施設がついた雑誌だ。


「買い物が先か? 事務所に雑誌を取りに行くのが先か?」

「……ご迷惑でなければ、雑誌で……」

 事務所ではなく、雑誌を指定する由紀を律が笑う。

 事務所に行き、明日からの仕事内容を聞いたあと由紀は雑誌を受け取った。


「たぶんこの辺にも他の雑誌があると思うから、見つけたら持って行っていいぞ」

「いいんですか!」

 由紀は思わず前のめりで答える。

 リッカの雑誌がもらえるなんて幸せすぎる。

 今朝ポストに入れたばかりの事務所の鍵を再び受け取った由紀は「がんばって片付けます!」と意気込んだ。


 翌日から由紀は午前中に事務所の片付けを行った。

 昼はマンションに戻って自分の昼食のついでに律の朝食を、午後は律に頼まれたデータ入力や一級建築士の勉強。夕方は自分の夕食と律の昼食、寝る前に律の夕食を作る生活に。


「家政婦として雇ったんじゃないから、俺の食事は作らなくていい」

「家賃代わりです。……迷惑ですか?」

「いや、助かるけど……」

 味噌汁がうまいと照れながら言う律の言葉がすごくうれしかった。

 必要とされているというか、ここにいてもいいんだぞと言ってもらえたような気がして。

 ただのルームシェアだけれど、由紀は掃除も洗濯も勝手にやることにした。

 

 1ヶ月後には事務所の荷物はだいぶ片付き、毎日通ったせいか空になった年季の入った本棚や机が少し寂しく感じるようになった。

 この事務所は律のお爺さんの事務所。

 病気で長期入院することになり廃業することに決めたそうだ。

 もともとここにいた建築士たちは知り合いの事務所に転職済。

 ここを片付けるために律は一時帰国中。

 片付け終わったらまたドイツに戻るので、その頃には由紀にもどこか新しい事務所を紹介してくれると律は言ってくれた。

 

「律さん見てください! 6冊も!」

「ははっ、こんな小さい記事まで」

 よく見つけたなと律は雑誌を手に取った。

 

 事務所を片付けているうちに出てきたリッカの雑誌。

 この事務所の誰かがリッカを好きだったのか、孫がドイツで建築家になったのでドイツ雑誌をわざわざ買っていたのかはわからないけれど。


「これ、見たことがない建物なんです! これもここに桜の模様があって……」

「こんな小さい写真でよく桜だってわかるな」

「リッカのファンですから、当然です!」

 たぶん私が日本で1番リッカのファンだと言うと、律は笑いながら雑誌を由紀に返した。

 

「そういえば、もうすぐ試験だろ? 順調か?」

「あ、実は解説を見てもよくわからない問題があって」

「見せてみろ」

 春馬に捨てられたばかりなのに、もう律に恋心を抱いてしまっているなんて自分でも呆れるくらい惚れっぽいけれど、こんなふうに優しくされたら誰だって勘違いするよね。

 ただの雇用主なのに。

 初めて会ったときから親切にしてくれて、実家に帰ろうと思っていた私に住むところと仕事をくれて、そして試験勉強まで付き合ってくれるなんて優しすぎでしょ。


「この免震構造は……」

 律の説明はテキストよりもわかりやすくてすごい。


「この施工は工事全体の流れから考えないとダメだ」

 苦手だった学科Ⅴの問題がだんだん解けるようになっていく。


「律さん、初めて施工で満点取れました!」

 問題集の練習問題を見せると、律がよかったなと微笑む。


 ……その笑顔は反則でしょう?

 由紀は高鳴る胸を抑えることができず、律の笑顔を直視できなかった。

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