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【コミカライズ原作】推し建築家と恋、建設中です。  作者: 和泉


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05.手伝わなければよかった

 雨が上がった道でスーツケースを転がしながら駅に向かい、いつものように出勤。

 スーツケースは邪魔だったがロッカーに置かせてもらうことにした。


「あれ? 由紀、スーツケース?」

「昨日出張だったのに急にキャンセルになって、泊まって帰ってきたの」

「おつかれさま」

 同期の菜々美と挨拶を交わし、由紀はいつものように自分の席へ。


「由紀! 昨日どこに? 連絡もくれないし、心配するだろ」

 心配?

 え、なんで?

 見られたか心配ってこと?

 しっかりハイヒールを見たけれど?

 あぁ、ダメだ。春馬の顔をちゃんと見ることができない。

 

「ちょっと帰りが遅かったから泊まって。疲れて寝ちゃって。スマホの電池も切れちゃって」

「とにかく無事でよかったよ」

「うん、ごめんね」

 どうして私が謝っているんだろう?

 あのとき、扉を開けて問い詰めればよかったのかな。

 どうしよう、春馬と話すのがツラい。

 

「宮崎くん、ちょっといいかね」

「あ、部長。おはようございます」

 部長に呼ばれた春馬は、由紀に「またあとで」と部長のもとへ。

 春馬の後ろ姿を見ながら由紀はギュッと膝の上の手を握った。


 いつもの時間に朝礼が始まり、連絡事項が伝えられた。

 このファイルのフォーマットが変わった、法令が変わったからあとは各自で見ておくように。

 そんなよくある連絡のあと、信じられない状況に由紀は目を見開いた。


「……春馬?」

 なぜ女性と腕を組んで歩いてくるの?

 社長と春馬と知らない女性だ。


「由紀、なんで春馬くんが腕を組んでいるの? あれ、社長のお嬢さんだよ、第3デザイン課にいるお嬢様」

 小声で訪ねてくる菜々美に由紀は首を横に振る。

 そんなの私が知りたい。

 あれはどういう状況なの?

 さっき春馬は部長に呼ばれたけれど……?


「社長からみんなに報告があるそうだ」

 部長が社長どうぞと合図送ると、社長は上機嫌に笑った。


「えー、みんなも知っての通り、宮崎くんは先日、テンコアーバンデザイン主催のコンペで見事に銀賞に選ばれた優秀な社員だ。私の娘、美香との結婚も決まった彼を部長とした新しい部署を作ることになった。コンペ参加をメインに、我が社の広報も担う新しい部署として……」

 社長の話はまだまだ続きそうだが、私の聞き間違いでなければ、社長は春馬のことを「美香との結婚が決まった彼」と言わなかっただろうか?

 結婚?

 春馬が?

 勘違いでなければ、昨日マンションにいたハイヒールの女性は「ミカ」ではなかっただろうか?


 つまり、そういうこと。

 社長とゴルフに行っていたのも、飲み会が多かったのも、そして昨日マンションにいた女性も。

 いつから決まっていたのだろうか?

 社内コンペ?

 それとも銀賞?


 社長がエントランスの部分を気に入ってくれたと春馬は言っていた。

 手伝わなければよかった。

 スケッチブックなんて見せなければよかった。

 

「……由紀」

 そっと背中に触れてくれる菜々美の手が温かい。

 由紀は溢れ出る涙を隠すことができなかった。


「え、なんで? 小林さんと付き合っていたんじゃないの?」

「乗り換えかよ」

「え、ひどくない?」

 私と春馬が同棲していることを知っている同じ課の人たちの声が聞こえてくる。

 

「結婚式は社員全員を招待して行うことにした。ぜひみんな来てくれたまえ」

 結婚式?

 誰と誰の?

 私は何を聞かされているの?


「あぁ、そうだ。坂下部長、これを」

「え、なぜです?」

 社長から書類を渡された部長は目を見開いた。


「小林由紀くんはどこかね?」

「は、はい。私です」

 突然社長に名前を呼ばれた由紀はあわてて涙を拭き、手を上げる。


「君は本日でクビだ。今すぐ出て行きなさい」

「……え?」

 社長の冷たい言葉に、由紀は戸惑う。

 春馬は私と目を合わせることなく、社長とお嬢様と部屋を出ていってしまった。


「解雇……? なんで?」

 ふらついた由紀を支えてくれたのは、同期の菜々美。


「坂下部長! どういうことですか!」

 声を上げてくれたのは、昨日一緒に出張へ行った先輩。


「あんな人だと思わなかった!」

「コンペでいい成績だったからって酷いだろ」

 同じ課の人たちが由紀に大丈夫かと聞いてくれる。

 

「俺もどういうことなのか……」

 困った顔の部長に解雇通知を見せられた由紀はどうしていいのかわからないほど手が震えた。

 

「そんなのお嬢様との結婚に小林が邪魔だから追い出されたに決まってるじゃないですか!」

「酷いですよ! 部長、こんなの不当だって訴えてきてくださいよ!」

 だぶん何を言っても無駄だ。

 彼も仕事も一度に無くすなんて。

 やっぱりコンペなんて手伝わなければよかった。

 今更後悔してもなにもかも遅い。


「……お世話に、なりました」

 由紀は小さな声でそう言うのが精一杯だった。

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