世界の中心で喋る母を、片隅で止める娘
価値観の違いというものを、私は母から学びました。
私が母に頻繁に言うこと。
「世界は、お母さん仕様に出来てない! 」
私と母はラーメンが苦手です。
私が街中でラーメン店の看板を見つけると、こう小声で愚痴ります。
「あ~あ、私もラーメン食べられれば良かったのに」
母が街中で同じ看板を見つけると、こう文句を言います。
「どうして、ラーメン店なんてあるんだろう。うどん屋さんか蕎麦屋さんにすればいいのに」
私は母の口をふさぎつつ、怒ります。
「万が一、お店の人に聞かれたらどうするの!? 世の中には私らと違ってラーメンが好きな人の方が多いの! 」
同じく街中で、若い俳優さんのポスターを見かけた時の私の感想です。
「今、こういう人が芸能界で人気なんだな~」
母の感想です。
「なんか若すぎるね。もっと渋みがある人をポスターにすればいいのに。貫禄も足りないし」
またもや周囲を覗いつつ、母の口をふさぎます。
「10代、20代の若い娘さん達が好きな芸能人なんだから、若くて当たり前でしょう! 私ら(アラフィフとアラエイト母娘)はターゲット世代じゃない! 」
無駄に心臓が痛いです。
私と母の性格の違いは、生い立ちの違いからくると思われます。
私は四人姉妹の次女です。生まれ育った場所は田舎で店や駅は遠かったです。
母は2人兄妹の末っ子。便利な街中の裕福な家に生まれ育ちました。また孫を溺愛する祖母も同居していました。本人は否定していますが、お嬢様育ちです。
子ども時代の、具体的な違いを挙げていきます。
例えば洋服。
私たち姉妹は、子どもの頃の洋服は親戚や両親の知人がくれるお古が基本でした。
子どもの成長は早いです。どこの家も、まだ着られる子ども服があります。四姉妹の我が家に、それらが回ってきました。
定期的に届く服の山から、姉妹それぞれが自分好みの洋服を探し着ていました。
母の場合です。曾祖母(母の祖母)は、着物の仕立て屋をしていました。また祖母(母の母)は洋裁の達人だったそうです。そして親戚には編み物名人のおばさまが存在。
自分のために作られた服が、常に箪笥にどっさり入っていたそうです。
例えばおもちゃ。
我が四姉妹は、基本はクリスマスプレゼントだけでした。
兄弟姉妹あるあるです。だれか一人に買うと、他のきょうだいも買って欲しいと親へ要求が始まります。果ては仁義なき戦いになります。
四姉妹の両親である父と母は家庭の平和を守るため、おもちゃはクリスマスのみとしていました。
※誕生日は一人だけとなり喧嘩となるため、中学ぐらいまでスルー。
というわけで、年に一個のみ。
当然、他の姉妹がリクエストしたプレゼントも気になります。
それぞれ交換したり、一緒に使ったりして遊んでいました。
母の場合です。欲しいおもちゃは両親とお出かけの時に店頭で強請れば、ほぼ買ってもらえたそうです。そして兄とは性別が違うということもあり、おもちゃの共有は無し。
例えば本や漫画 以下略。
私は身の回りにあるものから、自分好みのものを発掘するトレジャーハンター。
母は好みを周囲にオーダーし、用意して貰うお嬢様。
そのため感覚が決定的に違ってしまったようです。
私の感覚です。
地球には80億人近い人々が暮らしていて、自分も一員である。
世界には様々な価値観や嗜好、品々があふれている。その中から、自分の身の丈に合った好きなものを探し、選んでいく。
もし世界と自分で価値観に違いが生じたら、自分が世界の価値観を学ぶ必要がある。
母の感覚です。
世界は自分を中心に広がっている。 物、出来事、思考、それらが自分の価値観に適合するか常にジャッジ。自分に必要ないものは世界にも必要ない。
世界と自分で価値観がちがったら、世界が自分の価値観に合わせるべき。
※おそらく無意識。
「あんたはマリー・アントワネットか!? 」
※『パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない』の言葉で有名な、18世紀のフランス王妃。
と、母に怒ります。
以前に、母とデパートに行った時の出来事です。
衣料品売り場にティーンズ用の夏物衣服が特集されていました
マネキンたちは色とりどりのワンピースを身に着けています。
ストライプや花柄の華やかな色合い。裾や襟を飾るのはレース。
姪たちが、大きくなってから着るところを想像し呟きました。
「どの服も可愛いね~」
私の感想に答える母。
「でも、スカートの丈は短いし肩は丸出し(ノースリーブ)よ。それに少し派手すぎる気がする」
私はディスプレイされたワンピースを指さし、80歳近い母にこう言うのが精一杯でした。
「……お母さん……まさか自分が着るつもりなの……!? 」
母のことを好き勝手に書きましたが、なんだかんだ言って可愛いです。
昔からこういう性格なんで、我が家では母はマスコット扱いされています。
末っ子より妹キャラです。
この間、孫から世話を焼かれていました。