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勇者は魔王とカレーを作り世界を救う

作者: ミント
掲載日:2025/08/08

「いやー、まさか魔王城乗り込んだ瞬間に即死魔法で全滅させられるとは思ってなかったわー魔王マジ魔王だわー」


「それなー……って、言ってる場合か!」


 魔力封じの結び目が作られたロープで、身動きが取れないようぐるぐるに縛りつけられた魔法使い・キャロン。お得意の魔法が使えず絶体絶命のはずだが、どこか能天気な彼女に勇者ニオは声を張り上げるが……彼もまた、同じようにロープで縛られている。その上、彼は攻撃を受けた際に咄嗟に仲間を庇ったため一番重傷を負ってしまった。蘇生魔法を受けてなお、全身に残る痛みに抗うことはできず……「あーもう俺たちどうするんだよ!」とやけっぱちになりながら声を張り上げる。


「勇者パーティー結成してせっかくここまで来たのに! 俺たちの冒険はここからじゃないのかよ、俺たちの伝説はこれから始まるんじゃないのかよ! 俺、勇者になって魔王を倒して、色んな人を助けた後に死後も美少女エルフの心に残って追憶の旅をしてもらうのが夢だったのに……!」


「それ、勇者の中でも相当に実力ある人格者じゃないと認められねぇだろ」


 冷めた口調で言う三人目の仲間、戦士テトもまたロープで縛られている。




 一度、命を奪われた上でわざわざ武器も防具も封じられた状況を強いられている。


 魔王が自分たちに、何をするつもりか――絶望的な未来しか見えないのは、致し方ないことだろう。


 その残酷な運命の始まりを告げるかのように、足音が近づいてくる。


「貴様たちか、我が城に侵入したという無礼者たちは」


 地獄の底から響いてくるような、冷たい声に三人は震え上がる。


「お前が、魔王トルトか……!」

 ニオがその名を呼べば、その男――人類に戦いを挑んだ、魔族の王は不敵に微笑む。


「不敬であるぞ、人間の勇者が……まぁ良い。勇者よ、貴様たちに聞きたいことがある」


 溢れ出る魔力と、凄まじい殺気。せめて勇者らしく、と必死に己を奮い立たせていたニオはそのあまりの迫力に怯み口を噤んでしまう。どこか諦めたようだったテトも、能天気だったキャロンも咄嗟に姿勢を正すがそれ以上にできることは何もなく……これから自分たちにどんな凄惨な拷問が加えられるか、果たして人類を裏切らずに済むだろうかと勇者たちは三者三様に冷や汗をかいた。その時点で、もはや彼らに勝ち目はない……無意識にとはいえ、敗北を認めた勇者パーティー三人に魔王は悠然と語り掛ける。


「余に『カレー』という料理の作り方を教えよ」




「あー……魔王、手料理初挑戦的な?」


 きょとんとするテトとニオに対し、いち早く魔王にそう尋ね返したのはキャロンだった。

「いいんじゃない? いくつになっても、新しいことに挑戦するその気持ち超大事」


「まぁ、そんなところだが……魔水晶で貴様たちの様子を見ている時に、道中で頻繁に食べている『カレー』に興味を持った。魔族の世界にも、あの料理を取り入れたいと考えてな……」


「うわっ、ウチらのこと監視してたわけ? えっ、ないわー。魔王、ひょっとしてストーカー?」


「貴様を記念すべき一皿目にしてやろうか」


「誠に申し訳ありません魔王閣下、謹んで私ども勇者パーティーのカレーのレシピをご教示させていただきます」


 あっさり掌を返したキャロンを「お前それでも勇者か!」とニオが怒鳴りつける。しかし、今の彼らに「カレーの作り方を教える」以外の選択肢がないことは事実だ……現状を諦めて受け止めたのか、テトが「言われてみれば」と口火を切る。


「カレーを作り始めたのって、確かニオだったよな。元は、勇者たちの中で伝わるスパイスを調合した薬膳料理なんだっけ」


「それは、そうだが……そんな大層な料理でもないぞ? もともと、満足な調理環境を整えにくい冒険業で『その場で調達できる材料を美味しく食べるために』って考えられたメニューだし」


「わかりみー。ドラゴンのカレー、簡単だけどめっちゃ美味かった」


「俺は海で食べたクラーケンの海鮮カレーの方が好きだな」


 テトが口を挟めば、そのまま勇者一行は冒険の途中で食べたカレーの思い出話を始める。三人であれこれ言っていれば、魔王がじゅるりと涎を啜る音が聞こえた。


「勇者とはいえ、よく魔王の前で『魔物を食った』という話ができるものだな……まぁいい。簡単な料理であることはわかった。だが、にわかには信じがたい……まずは余の前でカレーを作ってみせよ。その間はその、魔力封じのロープによる拘束を緩めてやる」


「えー。それ、あれこれ理由をつけて結局自分じゃやらないパターンじゃなーい?」


「即死魔法なら今すぐにかけてやれるが?」


「大変申し訳ございません魔王閣下、直ちにカレーの調理に取りかからせていただきます」


 またしても態度を急変させたキャロンに、ニオが抗議の声を上げる。だが言葉通り、片手に魔力を集約させ始めた魔王を見れば黙り込むしかできなかった。テトが「仕方ない」と溜め息をつく。


「この状況じゃどの道、魔王に従うしかないだろう……ニオ、キャロン、カレー作るぞ」


「……本気か?」

「生きなきゃ平和もへったくれもない。勇者、続けたいんだろ?」


 テトの問いかけに、ニオは頷く。




 エルフうんぬんはどうあれ、平和を築くために勇者になった。ここで生きなければそれも意味がない。


 それに……人類に仇為す魔王がなぜ、そこまでカレーにこだわるのかも気になる。

「……わかった。とりあえずある材料でカレー作るぞ」

「おけおけー」

 その返答を聞いて満足したのか、魔王はニオたちのロープを緩めた。




「本当に、簡単なのだな……」


 宣言通り、カレーを作ったニオたちに魔王は目を見開く。


「そそー簡単っしょー?」

「キャロン、お前ほとんんど何もしてないだろ」


 ドヤ顔のキャロンにツッコむテトの隣で、調理の大部分を担当したニオが「まぁな」と答える。


「一度、鍋で作れば途中で誰かに分けてもいいし……俺たちも冒険の途中、他の勇者やたまたま居合わせた人にもご馳走したりしたよ」


 ニオがそう零したら、魔王が「なるほど、この料理は大勢で食べるにも向いている料理なのか……」と感心した様子を見せた。そこしだけ気が緩み、話しやすい空気になってきたことを察してかニオがさりげなく「なんでそんなに、『カレー』の作り方を知りたいと思ったんだ?」と魔王に尋ねる。すると魔王は意外とあっさり「実は……」と語り始めた。


「魔王軍は魔族の集まり、ということは貴様らも知っていると思うが……実は一口に『魔族』と言っても色々な種族がおる。人語を介さず呼吸や鼻歌といった独自の方法で意思疎通を図るもの、そもそも思考らしい思考を持っていないもの。そんな彼らをまとめるのは、大変なんだ。加えて食料不足が絡めば、どうしても魔族同士がギスギスしてくる……そんな時に、余は貴様らが冒険の最中にカレーを食べている様子を目にした」


「あー、それで羨ましくなっちゃった的なー?」


 キャロンの軽い横槍を、魔王は「そうだな」とこちらも軽く肯定する。


「……実を言うとな、魔族たちが人間界側に敵意を向けるようになったのは魔族同士ての内紛が続いたためなのだ。魔族ごとの習性や生態の違い、意思疎通手段や文化の違いによる衝突、特に食文化の違いは大きな問題となった」


 威厳があったはずの魔王が、そこで物憂げに溜め息をつく。


「魔族によっては他の魔族を『食料』と認識し、勝手に食べてしまう者がいる。そうなると食べられた方の魔族が黙ってはいないものだから、その解決が大変でな……だから人間界に侵攻しはじめたのも、そういった魔族間での内紛を少しでも減らすためであったのだ」


 その言葉の先を飲み込むように、魔王はカレーを食べ始める。


「うん、これは美味いな。これなら少なくとも食料面での問題は解決できる。魔王城に来たものに配るようにすれば、食糧不足により他の魔族を襲うこともあるまい。一人で毎日、作り続けるのは……大変だろうが、するうちに慣れていくものだろう」


 その言葉を聞いた瞬間、勇者ニオが意を決して「あの」と魔王に告げる。


「今の話が、本当なら……俺たちがしばらくこの城で、魔族のためにカレーを作ります。今の話を聞いたら魔族が人間を襲う最大の原因は魔族同士のいざこざ、それも食に関わることみたいですし……カレーだけで解決できるなら、これもきっと争いをなくすためだと思う。だから、俺……ここで魔王のためにカレー作ってみます」


 真っ直ぐな視線で宣言する勇者ニオに、面食らった表情の魔王。唐突な勇者の宣言にテトとキャロルも顔を見合わせるが――彼らもまた「勇者」として、平和な日常を作ることを目指して来たのだ。


 結局、勇者パーティーはそれから魔王と共にカレーを作り続けることになったのだが――こうして勇者パーティーが魔王と共にカレーを作り続けた結果、魔族は人間に対する偏見をなくしまず人間を無闇に襲うようなことがなくなった。基本的にどんな材料を使っても良いということで食糧難も解決し、魔族同士のいざこざも生まれなくなった。




 結果的に、「勇者のカレーが世界を救った」と言えるような展開となり――人間より寿命の長かった魔王はその功績を称え、世界を救った勇者とその勇者が作ったカレーを後世まで残すことを心に決めたのだった。



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― 新着の感想 ―
カレーが世界を救った!? と言うか魔王さま、開戦理由がC国の反日デモみたい。
投稿感謝です^^ ほっこり(^^♪ さらに後世、「原初にして至高の一皿」として魔王の娘(黄褐色カラーなピロ○ース風美少女)がそのレシピを語り広めたのであった。 とか妄想しちゃいつつ、これから食すお…
 美味しい物は世界を救うのですね。魔王が種族間の揉め事を抑える為に人類を魔族の共通の敵と設定したのは、常套手段とはいえ悪手でしたが、勇者のカレーに目を付けて路線変更したことについては評価出来ますね。 …
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