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第5話 一瞬の激突

 先頭を走るスカーレットに側近が馬を寄せる。


「スカーレット様、敵は想定以上の数を出しております」

「そのようだね。アタリってとこかい」


 あれだけの規模の軍容であれば、狙いである副団長ロックも出陣しているはずだ。ここまではデモグラシス様の読み通りだ。


「このまま距離を詰めるよっ! その後の動きは分かってるねっ?」

「はっ! 手筈通りに!」


 スカーレットは後ろに従える忠実な騎士たちに向かって叫ぶ。


「行くよっ、豚ども!」

「御意ぃぃっ!!」


 漆黒の馬たちがその馬脚を更に速める。


「父上っ、奴らスピードを上げ突っ込んでくるようです……!」

「数で勝るこちらに対し横陣のまま突撃するというのか。魔王軍は陣形も知らぬのか、または罠か。いずれにせよ魚鱗の陣で突き破ってくれよう!」


 疾風騎士団は団長ガーサントの武力による一点突破が最大の強みだ。軍全体が三角形になり、先端に位置するガーサントが突破口を開き、崩れた相手を蹂躙する。

 疾風騎士団は平時からこの戦い方を模擬戦で何度も訓練してきた。


 初陣である者が多いのは不安要素ではあるが、これまでの鍛錬をしっかり発揮し、すぐに陣形が組み上がる。


「ロック、お前は私の側で戦え。決して無理はするな」

「分かりました、父上! 共にこうして戦場に立てること、嬉しく思います!」

「わしもだ! 行くぞっ!」


 両軍の距離が一気に縮まる。スカーレットは敵の先頭を走る二人の男の内、一人に視線を集中させる。

 いた、あの若造がロックだ。よし、この形が作れれば私たちの役目はほぼ終わったと見ていい。


「全軍、停止っ!」


 スカーレットの一声に紅蓮騎士団は急ブレーキをかける。並の馬ならその勢いで脚が折れてもおかしくない急停止。


 魔王軍の勢いが止まる。罠かっ!? ガーサントは瞬時に思考を巡らせる。しかしこちらの勢いはもう止められない。衝突まであと100mもない。


 ここで最良の手は……隣を走る息子に声をかけようとしたその時、ロックが吠える。


「うおおおぉぉ!」


 ここで怯まないのは勇気の証か、それとも若さゆえか。そんなことはどうでもいい。先頭を行く我らが道を示す、それが最良の手だ。ロック、お前を誇りに思う。


「我が敵を穿(うが)ち、消し飛ばさん! 烈風粉砕剣っ!!」


 ガーサントとロックが同時にスキルを発動させる。剣から放たれたそれぞれの暴風が一つになり、爆発的に成長してスカーレットに迫る。

 自身が重傷を負うレベルには思えないが、直撃を受ければ後ろの部下たちは多くが命を落とすだろう。


 冷静な判断を下すスカーレットだが、次のロックの行動には面食らってしまう。


「雷神よ、怒りの咆哮を轟かせ! 激雷光牙剣っ!!」


 ロックが続けてスキルを使い、暴風に雷が乗る。もう全剣技を使いこなしつつある……! やはりこいつは危険だ……!


 紅蓮騎士団の先陣を雷を纏った暴風が飲み込む。バイアリー平原に轟音が響き、大地から剥がされた土と草が空高く舞い上がる。


 これで魔王軍の頭は潰れたはずだ。機先を制したガーサントは勝機を得たとばかりに馬に檄を飛ばす。

 

 彼が最期に見たのは、土煙の中から現れた何者かが手のひらをこちらに向けている様子だった。


 闇の塊が横を走っていた父を飲み込み、そのまま後方へ突き進んでいく。闇は触れたもの全てを無に帰す。後ろに続く兵士たちも次々と闇に溶けていく。


 即死した者はまだましだったかもしれない。体の一部分が闇に触れ、腕が根本からなくなり鮮血を噴き出している者、えぐられた腹部から臓物が飛び出している者などが悲痛な叫びを上げる。


 ロックは自分たちに何が起きたのか分からなかった。


 父は死んだのか? 突然眼前に現れたこの化け物は何だ? 物語に出てくる魔王はあんな姿ではなかったか? 魔王? なんで魔王がここにいる? 自分も死ぬのか? 神から最高のスキルをいただいたばかりなのに? これからもっと父に認められるはずだったのに? 


「すまない」


 こちらに再び手をかざす化け物がそう言った気がした。そんなわけないのに。ロックの意識はそこで途絶えた。

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