忘れた・・・、忘れて・・・、忘れる・・・
pixiv様主催の『執筆応援プロジェクト~忘れられた約束~』に参加する為に書き下ろした作品です。
より多くの方達に読んで頂きたいと思いこちらにも掲載する事にしました。
それではごゆっくりどうぞ・・・。
俺の名前は飯田英明。
ど田舎で生まれ育った俺は地元の高校を卒業した後、大学進学を機に関東へ。
大学卒業後もそのまま残る形で東京に本社を置く出版社に就職し、取引先の社員として働いていた妻と出会い結婚。
現在は、都心から近い場所に在るマンションを購入しそこで娘と息子を含む家族4人で暮らしている。
そんな俺にある日、小学校の同窓会の案内状が届く。
俺は行く気など全く無かったのだが、妻に促されるままに参加する事となった。
差し詰め俺が留守の間、2人の子供達と美味い物でも食いに行くのだろう。
俺はそんな事を思ったが、言葉にすると口喧嘩になり兼ねないので、そのまま自分の中で留める事にし、取り敢えず案内状の出席と書かれている文字を囲う様にボールペンで丸をし、翌日ポストに投函するのであった。
同窓会当日。
正午を過ぎた頃実家に到着する。
リビングの隅に置いた荷物から出発前に購入した手土産を渡した後、まだ昼食を食べていなかった俺は久々に実家の台所にて他愛の無い会話を交えつつ両親と食事を共にした。
そして、数時間程身体を休めた後、18時開始の同窓会の時間が迫った頃、実家の前まで迎えに来てもらったタクシーで会場へと向かう事にした。
「気を付けて帰れよ。それで、今度はいつ来るの?」
「いや、まだ帰らないよ。今日は一泊して明日帰るから。」
「あと、今度稲刈りが有るけどお前会社休めるか?」
「無理だよ。関東から此処まで何時間かかると思ってんだよ。」
認知症の影響なのだろうか、支離滅裂な事を言う両親に対し傷付けない程度に返答し、タクシーへと乗り込んだ。
「(はぁ、親父もお袋も年取ったなぁ・・・。)」
道中、そんな事を思いつつ同じく離れて暮らす兄弟達と近い内に両親や相続にまつわる話し合いをしなくてはならないという現実に直面した俺は同窓会に参加する羽目になった事に対しての憂鬱な気分との相乗効果で後部座席から見える代わり映えしない地元の景色を見ながら溜め息を付くのであった。
そして数分後、タクシーは会場へと着く。
会場である地元で一番大きなホテルのロビーには大きく、『歓迎 ○○小学校 平成△△年卒業生 御一同様』と書かれていた。
会場である、2階の宴会場へと行くと既に始まっていたのか何人かの同級生がビールの入ったコップを片手に食事をしていた。
「お!飯田。久しぶりじゃねぇかぁ。」
「飯田くん、元気だった?何年ぶりかしら?」
「珍しいな、飯田が来るなんて・・・。」
俺の事を覚えていたのだろうか同級生数名がこちらに向けにこやかに笑いながら親しげに声をかけて来た。
だが生憎、俺はそいつらの事をすっかり忘れてしまった様で何を話して良いか分からずにいたが、
「おぉ、お前らも変わんないな。」
「調子はどうだ?」
と、いった具合に当たり障りのない言葉をかけ、内に秘めた後ろめたい気持ちを悟られぬ様、お茶を濁すのだった。
そして、会は時間が進むにつれ皆、酒が回って来たのが影響してか気が弱そうな奴にネチネチと絡む者や仕事や家庭での不満や愚痴をこぼす者が出始めた。
更に言えば、卒業して何年も経つというのにも拘らず、年老いた姿へとなった教師陣が講釈を垂れ、それを聞き感動したのか号泣する奴も居ればこれを機に虎視眈々と再婚相手を必死で探す者も居るのだった。
「(この隙に帰ろうかなぁ・・・。)」
収拾のつかなくなって来たこの空間に辟易としながら天井に視線を向けつつそんな事を思っていると背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「飯田、お前来てたのか?」
「あぁ、稲本。それに辻村も?」
この2人は稲本と辻村と言って、俺が唯一心を許せる地元の友人だ。
彼等は大学卒業後、帰郷し稲本は地元の銀行へ、辻村は同じく地元の農協へとそれぞれ就職した。
彼等との再会をきっかけにそれまでの鬱積した気持ちが消え、思わず顔が綻ぶ。
「珍しいな、お前みたいな奴が来るなんて?」
「あぁ、まぁな。」
「大方、もう帰ろうかなとか思ってたんだろ?」
「ん、あ、あぁ。」
図星を付かれやや気まずそうにする俺を見兼ねてか友人2人は傍まで来ると一緒に飲もうと俺を誘うのであった。
そして、彼等と在りし日の思い出に浸っていると話は2年生の時に行われたクラスメイトの送別会での出来事に。
「そう言えば、綾乃ちゃんのお別れ会の時、お前手紙渡したよな?」
「その後、返事とか来なかったのか?」
「『綾乃ちゃん?』、『手紙?』」
彼等の問い掛けに対し俺は一瞬、何の事を聞かれているか理解出来なかったが、脳内の一番奥に沈殿していた記憶が一気に浮遊してくると、当時の出来事を思い出すのだった。
家の事情で転校する事となった彼女と最後の思い出を作る為、誰が企画したか定かではないが送別会をする事となった或る日。
皆が親から貰った小遣いで購入したプレゼントを渡す中、
「もう会わない奴にプレゼントなんかあげなくても良い。」
と、両親から突き返され気の利いた代物を用意する事が出来なかった俺は、親父の部屋に有った官製ハガキ一枚を拝借し、
『あやのちゃん、元気でね。またいつかあおうね。』
と、書いて渡したのだった。
彼女は少し困惑するもすぐさまニコッと笑いながら、
「ありがとう、飯田くん。また何時か会おうね。」
と、俺と約束するのだった。
それから、同窓会当日である今日まで彼女と対面する事は愚か、手紙の返事すらも来ていない。
何十年も前の事なので記憶は曖昧であるが、こちらの住所はきちんと記入した筈だ。
ましてや彼女の性格上、相手と交わした約束をいとも簡単に破るタイプとも考えにくい。
俺との約束などそく忘れてしまったのであろうか・・・。
「いや、無いよ。会っても無いし、手紙も来なかった。」
改めてこの事実に対し疑問を抱きつつも俺は彼等の問いに嘘偽り無く答えるとビールを一口含んだ。
「そうか、お前も知らないのか・・・。」
「どういう事だ?」
稲本が一言呟くと彼女に対し何かを知っているだろうと判断した俺は結論を求める様に彼等に尋ねる。
「あまり良い話ではない・・・。」
「飽くまでも人伝に聞いた話だ・・・。」
彼等はそんな前置きをした後、転校してからの彼女にまつわる話を俺に聞かせてくれた。
母親が再婚する為、転校して行った彼女は新たな環境に馴染めず孤立していたらしい。
クラスメイトからはいじめを受け、新たに父親となった人物からはぞんざいに扱われていた様だ。
故に心が荒み誰とも口を利かなくなった彼女は中学2年生の頃、母親が突然疾走し行方不明に。
そんな状況下の中で高校に進学するも程無くして中退した彼女は父親から逃げる様に家出し、ジプシーの如く、様々な場所を転々としながら風俗嬢として働き、稼いだ金の殆どを行く先々で出会った男に貢ぐという生活を送っていたらしい。
なお、それ以降の動向については彼等も聞いていないとの事だ。
現在、彼女が何処で何をしているかは分からない。
今頃、幸せな人生を歩んでいると信じたいのだが、察するに残念ながら恐らくそれとは程遠い道を歩む羽目になっているだろう。
彼等の話を受け、確信も無いのにそんな感想を抱いてしまった俺は言葉にしてはならないと自分に対し忠告するとその想いを口にせず、そのまま心の中に留めておく事にした。
彼女にまつわる話をしたが為に、折角友人である我々3人が再会したというのに場の雰囲気が暗くなり始めた事に気付いた俺達はこれらの話を一切止め、楽しい気分になる話題を提供する事に気を配った。
そして、居た堪れない気持ちを覚えた俺はその想いを流し込む様にコップに残ったビールを飲み干すとつい先程思い出したばかりである彼女にまつわる全ての記憶を忘れる決意をするのだった。
忘れた事さえも忘れてしまう程に忘れる為に・・・。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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