身長250cm体重280kgの軍師が帝国軍相手に大活躍する物語
ファイゲ王国の王城はかつてない絶望に包まれていた。
王の間で国王ドルム10世は玉座で震えていた。
「なぜ、こんなことに……!」
煌びやかな王冠も、真紅のマントも、立派な髭も、主に感応して意気消沈しているように見える。
「お父様っ……!」
桃色の髪を持つ美しい姫フローラが、悲痛な面持ちで父に寄り添う。
側近である壮年の大臣マードックも首を横に振る。
「我々に打つ手は……ありません……」
若き兵士アスクはすでに恐怖のあまり涙を流している。
「誰か助けてぇ……! お母さんに会いたいよぉ……!」
ファイゲ王国は悪名高き軍事国家ギール帝国からの侵略を受けていた。
帝国軍は30万の大軍でまっすぐ王都に迫っており、彼らの命運はまさに風前の灯火であった。
しかし、一人の男が手を挙げた。
「ここは私にお任せ下さい」
ファイゲ王国の軍師オーミル。
短い黒髪に透き通るような碧眼を持ち、知的な顔立ちをした二十代の青年だった。
「オーミル……。しかし、あの帝国が相手では……」と国王ドルム。
「ご心配には及びません」
オーミルは自信満々で答える。
「兵も戦意喪失しているこの状況で、いったいどんな策があるというのだ?」
「決まっております」
オーミルは自身の両腕の力こぶを見せつけた。
「この私が戦います!」
オーミルは身長250cm体重280kgを誇り、体脂肪率は5パーセント未満をキープしていた。
ファイゲ王国一の軍師の挑戦が今、始まる――
***
王都に迫るギール帝国軍。
指揮官を務めるのはブレッシュという将軍。知にも武勇にも長け、なにより残忍さに定評がある男である。
ブレッシュは馬にまたがり、王都を目にして、高笑いする。
「いくつもの国を滅ぼしてきたが、ここまで国防が出来ていない国は初めてだぞ! 国境からここまで素通りで来れてしまった!」
歪んだ笑顔で兵士たちに命じる。
「栄えある帝国兵たちよ! あの王都を蹂躙せよ! 王族も兵士も市民も皆殺しにしてやるのだ!!!」
兵士たちは血に飢えた雄叫びを上げる。
だが、その前に一人の男が立ちはだかる。
軍師オーミルである。
「ここから先へは通さん!」
ブレッシュは眉をひそめる。
「ずいぶん逞しいのがいるな。なんだ貴様は……」
「私はファイゲ王国軍師オーミル! 我が知略でお前たち帝国軍を滅してくれよう!」
オーミルの宣戦布告を、ブレッシュは鼻で笑う。
「ふん……。おい、あいつを血祭りに上げてやれ! 殺戮前の景気づけにちょうどいい!」
兵士数十人が剣を構え、オーミルに向かっていく。
だが――
「むんっ!!!」
オーミルが拳を横に振るうと衝撃波が発生し、たちまちその数十人は吹き飛んだ。
「これぞ我が計の一つ“拳の計”!」
「ぬうう……! ええい、かかれ!」
ブレッシュの号令で、兵士たちがオーミルに殺到する。
だが、オーミルはその全てを拳や蹴りで撃退する。
「ふんっ! おりゃあっ!! でりゃあっ!!!」
オーミルの奮闘ぶりに、ブレッシュもようやく焦りを見せ始める。
「お、おのれ……!」
城内にいる国王らは、戦況を巨大遠眼鏡で眺めていた。
「いいぞ、オーミル!」喜ぶドルム。
「あの人があんなに強かったなんて!」フローラも笑顔を浮かべる。
「人は見かけによらぬものですなぁ」マードックは感心している。
「ジュースでも飲もうっと」アスクは早くもリラックスし始めた。
戦場ではオーミルが第一陣の兵士らを全滅させていた。
「さあ、次は誰が来る?」
ブレッシュは顔を怒りに染め、命令を下す。
「だったら騎兵部隊! 槍で奴を串刺しにしてやれ!」
騎兵が動いた。
馬上からオーミルに槍を突き刺していくが、彼の筋肉にその穂先は通らない。
逆にオーミルはその槍を掴んで、騎兵を投げ飛ばしてしまう。投げ飛ばされた騎兵は高速の弾丸となり、敵をなぎ倒していく。
「ふむ、やはり槍は投げるに限る!」
オーミルは満足げである。
この調子で騎兵相手にもちぎっては投げ、ちぎっては投げ、の快進撃を続ける。
城にいる国王らは――
「まるで相手にならんじゃないか!」とドルム。
「あの人が軍師でよかったですね」フローラも胸をなで下ろす。
「安心して見ていられますな」マードックはニッコリ笑う。
「このビスケット美味いっすね」アスクに至ってはおやつを食べ始めた。
帝国軍が反撃を試みる。
オーミルめがけ大量の矢が降り注いできた。
だが――
「矢といえども、強風を味方にすれば恐れることはない!」
オーミルは口から大きく息を吐いた。
そのとたん、矢は勢いを失い、ボトボトと地面に落ちていく。
オーミルは落ちたその矢を拾って、次々に帝国軍に投げつける。
「うぎゃっ!」
「ぐわっ!」
「いでえっ!」
オーミルは高らかに自らの策を説明する。
「敵の放った矢を再利用する……これぞ“リサイクルの計”!」
あまりにも圧倒的なので、城内にはもはや楽勝ムードさえ漂う。
「なんと自然に優しい計略だ!」ドルムが喜ぶ。
「環境問題にも配慮して、さすがは軍師様ですわ!」フローラも目を輝かせる。
「もはやオーミルの勝ちは決まったようなものですな」マードックも勝利を確信する。
「ウイ~、ワインとチーズはよく合う……」アスクは酔っ払っている。
だが、帝国軍のブレッシュはまだ諦めていなかった。
「化け物め……! だったらアレを用意しろ!」
「アレ?」オーミルはきょとんとする。
「本来は城壁を破壊するために使うものなのだがな……」
ブレッシュが不敵に笑う。
「我が帝国軍の最新兵器! 『ライトニング』を受けてみるがいい!」
「ライトニング……稲妻?」
次の瞬間、オーミルの胸に巨大な矢が突き刺さった。
「ぐうっ!?」
戦争が始まって、初めてオーミルが出血した。
「さすがに貫通はせんか! だが、まだまだお見舞いしてやるぞ!」
第二、第三の矢がオーミルの肉体を抉る。
「ぐあああっ……!」
「教えてやろう。『ライトニング』とは“弩”だ!」
巨大な木製の弩が運ばれてくる。
「鋼鉄の城も『ライトニング』にかかればひとたまりもなかった。さしもの貴様も、こいつを喰らえばダメージがあるようだな」
「ぐ、まだだ! これぐらいで倒れるほど私はやわでは……」
「帝国の最新兵器はこれだけではないぞ! 『パープルミスト』!」
帝国兵たちが巨大な袋とホースが乗った戦車を運んできて、そのホースから紫色の煙を発射した。
煙はたちまちオーミルを包み込む。
「ぐ、ゲホッ、ゲホッ!」
オーミルの手足が痺れていく。
「か、体が……!」
「そいつは毒ガスだ! 一呼吸で巨象をも動けなくするほどのな!」
「ぐ、ぐぐ……!」
「さあ、終わりだ! 兵士たちよ、トドメを刺してやれ! 奴さえ殺せばこの国は落ちたも同然だ!」
これまでのお返しとばかりに大量の帝国兵がオーミルを囲む。
毒で弱った状態では彼らの剣や槍も十分脅威となる。皮膚や肉を切り刻まれる。
「ぐああああっ……!」
だが、オーミルも目は死んでいない。
「我が国のため、陛下のため、私は最後まで戦うぞぉぉぉぉぉ!!!」
奮戦するが、蝋燭の火の最後の輝きに過ぎないのは明らかだ。
城にいる面々も絶望に包まれる。
「ああっ、軍師様が……!」フローラが悲鳴を上げる。
「まずいぞ、袋叩きにされておる!」マードックの顔も青ざめる。
「せっかく助かったと思ったのにィ!」アスクの酔いも覚め、泣き叫ぶ。
そんな中、国王ドルム10世は黙り込んでいた。
「どうなさいました、陛下?」とマードック。
ドルムの髭は涙で濡れていた。
「オーミルがあれほど頑張っているのに、余はいったい何をしているのだ……」
「お父様……」
「決めたぞ、余も戦う!」
「陛下!?」
「余も君主のはしくれ、滅びるのならば怯えながらではなく、戦って滅びたい! オーミルはそれを余に教えてくれたのだ!」
ドルムは拳を握り込んだ。
「たとえ帝国に敵わなくとも、奴らの歴史に“しぶとい敵がいた”という記憶ぐらいは刻み込んでやろうではないか!」
ドルムの宣言に皆がやる気を起こす。
「私も戦いますわ!」フローラが腕まくりをする。
「私も及ばずながら……」マードックもうなずく。
「ボクも……頑張ります!」アスクも槍を手に取る。
「よく言ってくれた。他の兵や市民たちにも呼びかけよう。ファイゲ王国軍、出撃!!!」
***
弩を受け、毒ガスを吸い、大勢に袋叩きにされ、軍師オーミルの命はまさに燃え尽きる寸前だった。
帝国将軍ブレッシュが歓喜する。
「ハッハッハ、あと一息だ! その化け物を屍にして、奴らに絶望を与えてやれ!」
オーミルは心の中で主君に謝罪する。
(陛下、申し訳ございません……。私は、ここまでのよう、です……)
その時だった。
「オーミル! 余たちも戦うぞォォォォォ!!!」
ドルムが軍勢を率いて、救援にやってきた。
娘フローラ、大臣マードック、兵士アスクはもちろん、王都の民が一丸となって帝国に立ち向かう決心を固めたのだ。
「へい、か……?」
「後は余たちに任せろ! さあ、帝国軍よ! ファイゲ王国はただでは滅びんぞ! 最後まで抵抗してくれるわ!」
一方、帝国軍を率いるブレッシュは顔面が固まっていた。
「なんだ、あれは……」
驚くのも無理はなかった。
なにしろ国王ドルム10世は身長350cm体重500kgを誇り、その娘フローラも身長280cm体重は400kgを超える。
大臣マードックは身長270cm体重300kg、若き兵士アスクも身長は320cmある。
一般兵や王都民も、平均身長は250cmを上回っている。
さらに、いずれも体脂肪率は5パーセント未満をキープしている。
体格と筋肉を存分に備えた彼らに足りなかったのはただ一つ、敵に立ち向かう“勇気”だけであった。
ドルムは力強く号令をかける。
「ゆくぞ、皆の者! 突撃ィィィィィ!!!」
帝国軍は精一杯の抵抗を試みるが、もはや焼け石に水。
暴れるファイゲ軍を前になすすべなく壊滅した。
将軍ブレッシュの断末魔の声は――
「誰だよ! こんな国に攻め込めって言ったバカは!」
であったとされる。
ちなみにギール帝国はこの戦争での大敗が響き、革命が起こり、軍事国家であることをやめ、平和を愛する大国に変貌していくこととなる。
こうしてギール帝国軍を壊滅させたドルムは、傷ついたオーミルの体を軽々と持ち上げた。
「大丈夫か、オーミル!」
「陛下……。私が不甲斐ないばかりに、お手を煩わせて、申し訳ありません……」
「いや、余が戦う勇気を出せたのは、おぬしの奮闘ぶりを見たからだ。おぬしがいなければ、余たちは戦うことなく降伏していただろう……」
ドルムはオーミルに告げる。
「おぬしは……王国史上最高の軍師だ!」
これを聞いたオーミルの目からは、感激のあまり一筋の涙がこぼれた。
完
お読み下さいましてありがとうございました。