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特別エピソード:Empty world(side666)

 少女は、目の前でコーヒーをすする少年を見ていた。時代錯誤な、許嫁候補。


「随分と機嫌が悪そうだね…」


「そう見えるかしら?」


「見えるね。おおかた、僕のことが気に食わないんだろう?」


「気に食わないのはあなたじゃない。時代錯誤な、許嫁。そしてそれを引き受けるのが、ただの一介の呉服屋の、次女である私だということ。」


 短髪の少女…金城仁美は告げる。そのまま会話もなく時は過ぎ。仁美がコーヒーを冷やす為に息を吹きかける音だけが響く。


「あなたは、不満じゃないの?」


「うーん…興味が無い、かな。元々好き勝手生きることを諦めていたからね。」


「…嘘つきね。あなたは何かしらの理由で、今回の婚約に前向き。これじゃ損をするのは私だけじゃない。」


「そんなことまで分かるんだ?」


 真意を見抜かれたはずなのに、どこか満足気な様子を見せる少年。


「これはお手上げだね。ただ、諦めてたってのは本当だよ。でも婚約者が想像以上だったからね。」


「想像以上、ねぇ。私のどこがそんなに気に入ったのかしら?」


「君も感じたことは無いかな?仮面を被る、息苦しさを。」


 先程までの軽い雰囲気は消え、そこにあったのはすがるような視線。親を探す迷子にも似た、不安気な顔。


「…そうね。思うところが無いと言ったら、嘘になるわね。」


 ただの呉服屋の娘と言えど、歴史に残る家系に産まれた者として、外ではよそ行きの自分で過ごしていた。そんな自分が評価されていく度に。作り上げた、偽物の自分が評価されていく度に。ありのままの自分は要らないと言われるような疎外感を感じていた。


「一目見た瞬間、きっと同類だと思った。僕のことも、気付いてくれると思った。」


「あくまで恋愛感情は無いのね。じゃあ…やりましょうか。婚約者ごっこ。」


「…僕が言うのも変だけど、あっさり決めたね。」


 きっといつか後悔するだろう。それでも、今はそれで良いと思った。恋心もない。利害も、あくまで親同士のもの。ただの傷の舐め合いにしかならない。


「まぁ、嫌になれば逃げれば良い話だもの。」


 自分に言い聞かせるようにそうは言ってみたものの、家のしがらみで離れられないかもしれない。逆に、引き離されるかもしれない。それでも、今この瞬間もたれかかれる場所が一つ増えるだけでも、息苦しさが少し減ると信じたかった。


「それに。ごっこ遊びが本当になっても、それはそれで面白いかもしれないじゃない。」


「君が、僕を?想像出来ないね。でも、面白そうだっていうのは同意するよ。」


 二人はそっとコーヒーをすする。まだ湯気の残る、男…向井華月のカップ。湯気の消えた、仁美のカップ。その違いが、二人の違いを表しているように思えた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


金城仁美…呉服屋の名家、金城家の次女。姉である金城愛との関係は良好。和服の需要が下がりつつあり、存続が困難になった金城家と、その金城家と取引しようとする向井宗助の画策に巻き込まれて向井華月と婚約することになる。


向井華月…神名市の有力政治家、向井宗助の次男。神名市の地域活性化の為、和服を地域の工芸品として広める為に金城家を足がかりにしようと画策した宗助に利用され、仁美と婚約することになる。


金城愛…呉服屋の名家、金城家の長女。金城家の跡取りとなる為、華月の婚約者になる運命を仁美に押し付けたことに罪悪感を感じている。

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