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特別エピソード:カグラマイ(下)

ジカンヨトマレ

特別エピソード:カグラマイ(下)


 ある夜。寝苦しさを感じたかぐやは目を覚ました。目を開けると、紅に光る目を向けてかぐやの首を絞めるまり。


ーまり。あなたの最悪の予感…当たっちゃったね。


 かぐやは、縄を作り出してまりを拘束する。噂以上の奇声をあげたので、猿ぐつわもはめる。そのままかぐやは屋敷の床に触れると、床に大穴が開く。まりを肩に抱え、その穴に飛び込み、そっとまりを置くと宙を舞うように上昇。穴から出ると、穴に手をかざす。すると、穴が最初から無かったかのように塞がる。かぐやは目を瞑る。考えた末、決める。リミットは一週間。その内にまりを救う手立てが見つからなければ、まりとの約束を完遂すると。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 まりと一瞬接触したタイミングで、記憶は読み取った。記憶が曖昧で支離滅裂だったが、まりの中にいる何者かはかぐやの同郷だと判断した。同じ性質の力を持つ自分では、まりの中にいる何者かを祓うことは出来ない。救える手があるとすれば、その手がかりはあの岩しかない。岩を調べるには、つとめの信用を得る必要がある。しかし、まりがいなくなった犯人としてまず疑われるのはかぐやだろう。そうなれば、信用を得るのは夢のまた夢。事情を話し、それを信じられればつとめも協力してくれるかもしれない。だが、それはまりとの約束に反する。かぐやは床に手を触れ考え込む。考えても考えても思考は堂々巡り。かぐやは約3000年、あくまで観測者として宇宙を見て来た。しかし事情があったとはいえ、老人の人生に寄り添うことになり、つとめやまりと暮らすことになった。


「あぁ。そっか。」


 やろうと思えば、人外の力を行使してつとめ達の制止を無視し、岩を調べることも出来た。それでもまりと共につとめの家に仕えたのは…


「ひとりじゃないことの幸せを、知っちゃったんだ。」


 そして、想像以上に自分がこの星のことを好きになってしまっていることも自覚する。それを穢すのが自分の同郷の者なら…


「邪魔、だよね。」


 故に、考える。つとめに知られないまま、まりを救う方法を。そして、一つの案を捻り出した。賭けにはなるが、可能性がゼロじゃないだけまだマシだと判断。彼女は穴のあった位置を見た後に部屋を後にした。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「どこから入って来た?」


「さぁ。」


 そう言うと、かぐやは部屋の主人…和正の前に置かれた座布団に腰を下ろした。


「それで、何の用だ?」


「暴走した人、捕まえたよ。」


「…殺したのか?」


「殺してないよ。殺したくなかったから。」


「そうか。」


 そのかぐやの発言で、大まかな事情を察したようだ。彼は後ろを向き、表情を隠す。大きく深呼吸した後に、絞り出すように問う。


「どっちだ?」


「まり。」


「…そうか。」


 向こう側を向いたままで、表情は見えない。それでも、彼の感情はその声でひしひしと伝わってきた。


「お前でも、元には戻せない。ただ、それを解決する鍵を私が持っている。そんなところか?」


「話が早くて助かるよ。」


「何を望む。」


「あの岩を調べたい。」


「あれか…よりによって…」


 時が止まったかのような静寂。しばらく続いたその静寂を破ったのは、和正の声だった。


「そうすれば、確実に解決出来るのか?」


「調べても、確実に解決出来るとは限らない。」


「…分かった。条件がある。岩には傷一つ付けないこと。この地に大きな災禍が訪れた際は、解決に協力すること。この二つだ。」


「分かった。約束する。」


「なら付いて来い。」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 翌日の昼。かぐやとつとめは巫女装束で向かい合っていた。


「裏でいろいろしてたなんてね。」


「悪いとは思ってるよ。けど、こっちにはこっちの事情があったから…」


 ここは作りかけの神社前。その空間の中心にいるのは、かぐやとつとめ。そして、顔を布で隠され、拘束されたまり。つとめの家から運ばれた例の岩もまりの付近に置かれていた。つとめには、「暴走した人物を捕らえた。元に戻すにはつとめの協力が必要だ。」とだけ伝え、それがまりであることは隠してある。そう。和正との交渉の後、かぐやは岩を調べた。その結果、かぐやは岩の正体とまりを救う方法を知った。それには、岩の力と共鳴した存在、つまりはつとめが必要だった。


「じゃあ、確認するよ。この娘を助けることが出来るのは、この岩と相性が良くて、なおかつこの岩とずっと暮らしてきたあなただけ。でも、今のあなたではその力を使いこなすことが出来ない。だから、この岩とあなたを私が繋ぐ。人外の力だから、覚醒したらどんな影響があるかは分からないし、子孫まで力が受け継がれる可能性がある。大丈夫?」


「覚悟は出来ているわ。」


「じゃあ、やるよ。」


 作りかけの神社の前で二人は舞う。それに共鳴するように、岩が輝く。つとめは一瞬そちらに気を取られかけるが、目的を思い出し、意識を舞へと戻す。舞を続けるごとに、互いの境界線が薄れる感覚。それにより、つとめにかぐやの3000年以上の知識の一部が流れ込む。同時に、石から力が流れこんでくる感覚。見ると、舞でなびく自分の髪が、かぐやに似た紫がかった白髪になっていた。流れ込んできた力をまりの方に流すと、拘束されたまま身をよじって苦しむ。それを見たつとめは動きを止める。そして、まりに駆け寄ろうとする。


「止まらないで‼︎」


 かぐやの声がつとめを呼び戻す。焦りを捨てるように、大きく息を吐く。そして、先程までの正確さを失いつつも、ミスをすることなく舞う。そうして舞う内にまりのもがく動きが大きくなる。つとめの巫女装束の襟元が汗で変色した頃、まりの身体が輝いた。その光はまりを離れ、形を変える。収束すると、それは真紅のコウモリに変わった。それが逃げようとするのを、かぐやが人間離れした跳躍力で追い詰めて鷲掴みにする。それを唖然と見ていたつとめの元に歩み寄る。


「これが、この子に取り憑いてたの。ひいては、今までの事件も起こしてきた。」


「これが…」


 そう言い、かぐやが持っているそれに触れようとするが掴んでいない方の手で制止される。


「今のあなたなら、これを倒すことが出来る。」


「なら…」


「ただ、仮に倒しても数年後には蘇る。不死身なんだよ。良くも、悪くも。」


「じゃあ何?何回も私が倒さなきゃいけないの?私が死んだ後はどうするの?」


「一つだけ方法があるけど、聞く?」


「…えぇ。聞かせて。」


「これを封印する。あなたの中に。そして、あなたが死ねば、あなたの力を受け継いだ血縁者にコイツも宿る。」


「…分かった。やってちょうだい。」


「未来に、苦しい選択を押し付けるかもよ?」


「そうしないと、これは多くを殺すでしょう。大を救う為に、私が罪を被って未来に託す。」


「分かった。」


 かぐやはコウモリをつとめの胸に押し付ける。すると、光の粒子となったそれはつとめの体内に吸い込まれていき、つとめの髪色が元に戻った。


「これで、一件落着かしら?」


「そうだよ。お疲れ様。」


 それを聞いたつとめは早足でまりの元へと向かう。ここでかぐやは、取り憑かれていたのがまりだと伝えていなかったことを思い出し、まりとつとめの間に立ちはだかる。


「つとめ、汗だくだよ。ほら。この子は私が帰しておくから、つとめは帰って汗を流してきて‼︎」


「そうね。汗を流したいのは山々なのだけれど…この子の口から直接いろいろ聞かなきゃ、ね‼︎」


 そんなかぐやをおしのけ、ズンズンと進むつとめ。彼女はまりの顔を隠していた布を取る。


「さぁ、言い訳を聞きましょうか?まり…」


 どうやら、必死にかぐやが隠していた秘密もバレていたようだ。つとめはまりの口を塞いでいた猿ぐつわを手早く外しながら、貼り付けたような笑顔を浮かべて言った。


「あ、あの…おじょうさま?かぐやちゃん?これってどーいう状況…」


「あなた、例の事件の通り暴れてたのよ⁉︎」


「そうなんですか⁉︎…ってかぐやちゃん‼︎おじょうさまにバレないようにって言ったよね‼︎」


「…手段は問わないって…」


「それは‼︎バレないうちに殺してでも止めてって意味で‼︎それぐらい察して‼︎」


「ま〜り〜?どんどん余罪が増えていくわね?」


「あぅ?おじょうさまぁ?巫女姿、とっても似合っていて眼福です‼︎」


「話を逸らさない‼︎」


「ひん‼︎」


 まりは逃げようとするが、解放されたのは顔まわりだけ。身体の拘束を解かれていない為、逃げることが出来ずにつとめに捕まってしまう。ヘッドロックを仕掛けられ、拘束されたまま「ごめんなさい」とうめき、もがく。その力が弱くなった頃、まりは呟くような声を聞いた


「おかえりなさい。無事で良かったわ。」


「…ただいま。おじょうさま。」


 猿ぐつわのせいで痛む口をなんとか動かして伝える。一晩何も食べられずに過ごし、力が入らなかったまりは、つとめに背負われて帰った。


 その場から、いつの間にか白髪の少女は消え去っていた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「かぐやは、いつの間にか消えていました。」


「そうか。約束は果たしたから、あとは正体を知られる前にといったところだろうな。」


 屋敷の一室で、つとめは和正に今回の顛末を報告していた。かぐやがどこかに消えたこと。今回得た力は、子孫まで受け継がれること。今回の主犯のコウモリの化け物も、子孫まで受け継がれること。

 つとめは、力を受け取る際にかぐやの正体も知った。だが、そのことは口にしない。一生誰にも言わずにとどめておくだろう。


「今回の件で、この家の力の安泰は確定しただろうな。」


「えぇ。また同じ事件が起きたとして、対応出来るのは我々だけですから。」


 そう話を締めた二人は、夜空を見上げる。そこには模様がくっきり見えるほど明るい満月が浮かんでいた。


「別れの言葉も残さずに去っていったのは、少々癪ですね。」


「唐突だな。ならばどうする?」


「かぐやという名前を、誰もが知っているほど有名なものにします。あの木簡の内容を民が興味を持つように脚色して流布するのです。例えば、そうですね…月から来た魅力的な姫、とかはどうでしょう。」


 つとめは、月を眺めながら物語を締めた。


「そして最後に。かぐや姫は使者に導かれて、月に帰りましたとさ。」

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