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特別エピソード:カグラマイ(上)

 運命のイタズラ。そうとしか言いようがない。彼女は、とある星の大事件と同時に産まれた。その星に生きる全ての生命体が肉体を失い、精神体となった事件。彼女も例外では無かった。産まれるのと同時に肉体を失った。ただし、彼女だけ例外だった部分もある。他の者達は、元の体との乖離についていけず、心を摩耗していった。それに比べて、彼女は産まれてすぐに精神体になった。その為、心を摩耗することなく独自の進化を遂げていった。これは、そんな彼女の旅路の物語。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 大事件から約3000年程がたった頃。彼女は一つの惑星を見つけた。自分の同種(後にデビルホロウと呼ばれることになる)の干渉を受けた痕跡があるにも関わらず、命に溢れた惑星。彼女は、その惑星に降り立った。空を見上げると、夜空。周囲を見ると、植物に囲まれていた。彼女はこの星の知的生命体に見つかったときのことを考え、周囲の植物に擬態することにした。それから何時間かたって。斧を持った一人の老人が現れた。彼の記憶を探り、この世界の知的生命体の知識を得る。そんな彼が、自分に向けて斧を振りかぶる。その程度では傷一つ付かないはずだが、万が一のことがある。彼女は光を放つ。その眩しさに目を瞑る老人。隙を見逃さずに、彼女は姿を変える。老人の記憶から読み取った、彼の大切な少女に似た姿に。自分の力の性質からか、老人の記憶の中の少女とは違い、髪が白くなってしまった。


「…かぐや…?」


 それでも、効果はあった。老人は斧を取り落とし、彼女に抱きつく。亡くした者を利用し、老人を騙す罪悪感。せめて、かぐやという名前を引き受けて生きようと決めた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 それから約5年。かぐやとなった彼女は、老人が亡くなるまで側に居続けた。村人達は本物のかぐやはもういないこと、いなくなってしまったかぐやと髪色が違うことを知っていたため、かぐやを妖怪の類いだと思い、かぐやのことを避けていた。老人はかぐやを思い、物語を広めた。光る竹から、月の使いになって帰ってきたかぐやを見つけたという物語を。人々が信じなかった為、木簡に記したようだが、その物語が世に広まるのは物語が必要なくなってからになる。老人はかぐやが本物のかぐやではないことを察していたが、それでもかぐやの想いも察していた為、気付いていないフリをした。お互いがお互いの想いに気付いたまま共に時間を過ごし。老人を看取ったかぐやは、この星のことを調べることにした。歳を取らないのも、旅をしながらだった為気付かれることもなかった。

 そうして50年ほど旅をする中で、彼女は一つの村を見つけた。いや、一人の少女というべきだろうか。その少女は、気の強い貴族の娘。気の強さを表したような鋭い吊り目が特徴だった。村を散策しているときに偶然出会い、自分に似た波動を感じた。この土地に何かがあるかもしれないと考え、彼女の住む屋敷に潜り込む。屋敷に祀られている大きな岩から、何やら強大な力を察知する。自分と同等か、それ以上。岩に手を触れようとして、見張りに見つかる。かぐやはそれ以上の調査を諦め、しばらくの間様子見をすることにした。屋敷の監視と並行して他の場所の調査も進めたが、手がかりは無かった。過去に何が起きたかこの星の歴史を調べようにも、信用できる情報の載った歴史書の類がない。あったとしても、貴族しか見れないような場所に保管されている。もう手がかりはあの岩しかない。進捗が進まないまま、約一カ月。この場所は諦め、他の場所の調査を始めようと考え始めた頃のことだった。


「あなた、かぐやって知ってる?」


 少女に話しかけられた。見覚えがあると思い、彼女の記憶を辿る。その結果、彼女は貴族の娘の付き人だと分かった。そして、かつて老人が書いた木簡は巡り巡って貴族の娘が所持しており、その影響で「白髪の少女 かぐや」を知っていたようだ。


「もしも私がそのかぐや本人だって言ったら、どうする?」


 言った瞬間、締め付けられる感触。見ると、いつの間にか帯で縛られていた。戸惑っている内に担がれる。


「あっ‼︎舌噛んだら危ないから、喋らないでくださいね?まっててください‼︎おじょーさま‼︎」


 少女は駆け出す。その揺れで酔いつつ、良くも悪くもなんとか石に近づくことが出来そうだと考えるかぐやだった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「おじょーさまー‼︎おーじょーさーまー‼︎」


 揺られ続けて吐きかけた頃。少女の目的地、貴族の屋敷の一室に到着した。「疲れたぁ‼︎」という言葉と共に、雑に着地させられる。腰から落下し痛みを堪えていると、部屋の主人の声。


「この者は?」


「何を隠そう‼︎この子が本物のかぐやです‼︎」


 少女は胸を張り言う。そして思い出したようにかぐやの拘束を解く。


「これが、あの木簡の…なるほどね。それで、証拠は?」


「へ?」


「だから、証拠はあるのかって聞いてるのよ。」


「…えっと…本人がそう…」


「それは証拠にはならないわよね?」


 優しい口調だが、冷たいものを感じる口調。天井を見上げて考えた後に、すがるようにかぐやの方を見る。


「まり。あなたは何でそう…」


 それを見た貴族の娘は、呆れたようにため息混じりに呟く。腕を組み、ゆっくりとかぐやの元へ歩み寄る。


「私の使用人が迷惑をかけたわね。怪我はないかしら?」


「うん。大丈夫。」


「そう。」


 貴族の娘の、自分に対する興味が薄れていくのを感じたかぐや。自分を雑に扱ったまりという少女を助けるようで癪だが、助け船を出すことにした。


「それはそれとして。私は本物だよ。」


「あなたは証拠を出せるの?」


「私は、あなたの持ってる木簡を見たことがあるよ。」


 それを聞いた貴族の娘の眉が少し動く。


「それが証拠には…」


「光る竹から出てきたなんて証拠、どうやって出せば?」


「…少なくとも、関係者ではあるみたいね。」


 かぐやは胸を撫で下ろす。隣にいるまりが何故か自慢気な顔に戻ったのは見て見ぬフリをした。


「自己紹介が遅れたわね。私はつとめ。この屋敷の主の娘よ。」


 かぐやの調査が、ようやく一歩進展した瞬間だった。

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