表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

【side メリンダ】 

 アルディアス様との別れの挨拶が終わり、部屋を出たメリンダ。

 小走りに部屋から離れ、廊下の角を曲がると…


「やったー! やったわ!」


 喜びのあまり、思わず叫んでしまった。

 ハッと我に返り、あわてて手で口を押さえた。


『誰にも聞かれていないわよね。気をつけなきゃ。やっと婚約を破棄できたのだから』


 飛び跳ねたい気持ちを抑え、楚々と部屋に戻ろうとした時、メリンダの名を呼ぶ声が聞こえた。

声の方を振り返ると、そこにはテレーゼ様が部屋から顔を出し、手招きをしていた。

 あたりを見回して、足早に入るメリンダ。


「うまくいきましたね! テレーゼ様!」

「はい、すべてメリンダ様のおかげです!」

 キャーキャー言いながら、喜び合う二人。


「メイドに頼んで極秘に手に入れた媚薬が功を奏しましたね」

 メリンダは嬉しそうに言った。


「とても効果がありまして…その…一晩中寝られませんでした…」

 顔を赤らめながら話すテレーゼ様。


「説明書きには1・2滴で効果があるみたいだったけど、念のため10滴くらい入れたのよね。効き目がありすぎたみたい。ふふふ」

 いたずらが見つかった子供のように楽しそうに話すメリンダ。


「それにしても…最初、メリンダ様から王太子殿下と関係をもって欲しいと言われた時は、驚きましたわ。何か裏があるのではないかと…」


「…私はテレーゼ様にお伝えした理由で婚約破棄を望んでおりました。けれど、アルディアス様には知られたくなかった。でも、公爵家から破談を申し出るのは並大抵の事ではありません。ならば、アルディアス様の方から婚約破棄せざるを得ない理由を作るしかないと思ったのです。しかし、お相手の爵位が低い家格では有耶無耶にされかねません。そこで公爵家のご令様であられるテレーゼ様が適任だと思いました。公爵家相手にいい加減な対応はできませんから。ディクトール家にとっても、悪い話ではありませんでしょ? 将来、王妃になれるのですもの。それにアルディアス様側の責任ですので、我が公爵家にはお咎めなし!大成功ですわ!」


「けれど…本当によろしかったのですか?」

「はい、だからお願いしたのです」

 私はテレーゼ様に微笑みながらそう言った。


 その後、テレーゼ様は迎えの馬車に乗り、お帰りになった。

 そういえば、いつの間にかアルディアス様もお帰りになられたようだ。

 国王王妃両陛下にどんな顔でお話になるのやら…。


 私がアルディアス様との婚約破棄を考えたのは、高熱による昏睡状態から目覚めてからだ。

 意識を失っている間、私は長い長い夢を見ていた。


 夢の中で私はアルディアス様と予定通り結婚をした。

 その後、流行り病で国王陛下と王妃陛下が続けて崩御。

 国王陛下として即位したアルディアス様に、跡継ぎを望む声は日に日に高まっていった。

 けれど、2年が経過しても私の身体には妊娠の兆候が全く見られなかった。

 やむなく王室典範に則り、側妃を迎える事となった。

 

 アルディアス様と私は政略結婚だったけれど、お互いに愛し合っていた。

 側妃と寝所を共にする夜、アルディアス様は何度も言ってくれた。


「僕が愛しているのは、メリンダただ一人だ。側妃との間に子ができたら、寝所を共にする事はない。だからしばらくの間、我慢して欲しい。僕もつらいんだ…」


 私は側妃の部屋へ向かうアルディアス様の背中を、泣きながら見送った。

 国のために、跡継ぎは最優先事項。国王陛下としての義務は果たさなければならない。


 …私はこの夜、一晩中眠れない時間を過ごした…


 しかし、アルディアス様は側妃と寝所を共にした日から、私のところに来る事はなくなった。

 それでも私は彼を信じた。『お子ができるまで…。お子ができればアルディアス様は戻ってくる。そしてまた、二人の生活に戻れるのだ』と…。


 ほどなくして側妃が王子を出産。

 これで彼は戻ってきてくれるとそう思っていた。しかし、アルディアス様は第二側妃を迎えたのだ。

 そして第二側妃が懐妊すると第三側妃…第四側妃…と、どんどん側妃は増えていき。最終的に第十二側妃まで迎える事になった。

 それだけでは終わらず、メイドにまで手を付け始めた。


 その内、政務が疎かになり始め、周りの者からアルディアス様を諫める声が上がった。

 しかし、アルディアス様は聞く耳を全く持たなかった。


 私は王妃として、アルディアス様に苦言を呈した。

 すると思いもかけない言葉が返ってきた。


「子も生せぬ出来損ないが、偉そうに意見するつもりか! お飾りの王妃の分際で余計な事を申すな!」



 ――子も生せぬ出来損ない――



 愛しているのは私ただ一人と言ったくせに、次から次へと側妃を迎え、側室を増やし続けたアルディアス。

 この上ない侮辱の言葉を私に投げかけたアルディアス。


 愛情から憎悪に変わった瞬間だった…


 その後、膨れ上がった後宮費維持のため慢性的な財政難に陥っていき、その補填をするため税金を上げ始めた。

 特権身分の者は税を免除されていたので、負担は市民へ重くのしかかっていった。

 そうなると当然不満の声があがってくる。


 このままでは暴動が起き、ルキシロン国が崩壊すると懸念した王弟殿下が反乱を起こし、国王派を制圧。のちに遺恨を残さぬためにも、アルディアスはもちろん国王派および側室、その王子王女すべてが粛清された。


 その中には王妃である私も入っていた…


 目が覚めた時、夢か現実か混乱した。

 ただ、傍で私の手を握っていたアルディアスには憎悪と嫌悪感しか湧かなかった。


 長い長い悪夢はその後も見続ける事になった。

 

 繰り返し見せられる悪夢はあまりにも生々しく、もしかしたら未来の出来事なのかもしれない…そう思うようになった。そして、アルディアスと夫婦になる事はどうしてもできなくなった。


 婚約自体を破棄したかったけれど、破棄に値する理由がなければ、公爵家から王室に対して申し出る事は出来ない。ならば、アルディアスから婚約破棄せざるを得ない理由を作ればいい。


 婚約者がある身で不貞を行なえば、国王王妃両陛下から何らかのお咎めがあるはずだ。

 しかし、爵位の低い相手では有耶無耶にされかねない。そこで思いついたのがテレーゼ様だった。


 実は彼女は夢の中で第一側妃だったのだ。


 最初この提案をしたところ、テレーゼ様は全く本気にしなかった。

 当然だろう、婚約者に別の女性をあてがおうとするなどと。


 そこで私は子供が産めない身体である事を話した。

 けれど、この事をアルディアス様に知られたくない。テレーゼ様の心の中だけにしまって、どうか私に協力して頂けないか。将来、王妃への道も約束されている。お父上のディクトール公爵様も大いに喜ばれるのではないでしょうか…と泣き落とし、甘言し、協力を仰いだ。


 アルディアスには『独身最後のパーティー』と伝えれば、羽目を外すと思った。

 案の定、隙だらけで簡単に媚薬入りワインを飲ませる事ができたわ。


 ――全て思い通りになった――

 

 けれど…人の性癖って変わらないと思うの。

 何かのきっかけでアルディアスが他の女性と関係を持てば、女色に溺れるでしょうね。


 そう…例えばまた媚薬を使うとか…


 だってあの男、夢の中では性欲まみれの獣だったもの。

 他の女を知った途端、面白いように堕ちていった。


 それに…ねぇ、テレーゼ。

 あの悪夢の中で、アルディアスと一緒になって私を嘲弄した人間の中にはあなたもいたのよ。

 それだけではない。他の側妃を焚きつけて私を蔑み、侮辱し、貶めたのもあなただった。


 そうねぇ。タイミングを見計らって、余分に手に入れた媚薬を夢の中で第二側妃だった彼女に差し上げようかしら。


 あの悪夢がただの夢だったのか予知夢だったのかは…その時のお楽しみね。

 

 …さようなら、アルディアス。あなたの不幸を心から祈っているわ…


 


 




 




 

 

最後までありがとうございました!

この作品に少しでも何かを感じていただけたら幸いです。

さらに下の【★】をポチリといただけましたら、嬉しいです。

どうぞよろしくお願い致します。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もう一捻りして 実は全て夢魔術師テレーゼの陰謀だった! テレーゼは他人の夢を操ることができる夢魔術師で、魔術を使って悪夢を見せて メリンダの地位を奪う事に成功したのだ とかいうのはどうか…
[一言] 夢に見ただけでここまでやっちゃう人の方がはるかにヤバいサイコパスだと思った
[気になる点] そんな悪夢を見たら、結婚したくなくなるのは理解出来るけど、第2妃だった(夢で)相手にも一服盛ろうとするのは、どうかなー… だって、国民の事は考えて無い訳でしょ。 盛らずとも両陛下が本当…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ