#8 恨み感 第4話
篠崎は政木が呼び出してきたことに対して、嘲笑うのを必死に堪えていた。
「そんなに私を彼から離したかったのかしら……? ヨーコは――いや、政木先生は心配性ね……」
篠崎が廊下で待つ政木に声をかけると、二人ともどこかへ行くわけでもなく適当に歩き始めた。
「お主――じゃなかった、あなたが安藤くんに何かするのではと思って監視していたけど、意外と手を出さないのね」
政木が篠崎に視線を合わせ少し微笑むが、さっきまで笑いを堪えていた篠崎は無表情のまま正面だけを向いて歩いている。
「私はあなた達が困っている光景を見るのが楽しくて仕方ないからこの世界にいるだけよ……」
二人揃って廊下を歩きながら話しているが、不思議と誰も二人の話す内容に反応する者はおらず、まるで周りにいる全員が二人の会話内容だけ聞こえないようお願いされているかのようだった。
「多分、ヨーコ自身もこの並行世界をすぐに救う手段は思いついてるでしょうけど、それを実行したくないから困っている――と言ったところかしら……?」
篠崎が横目で政木に視線を向けると、政木は厳しい顔つきで正面を向いていた。
その表情を見ると、篠崎は小さくため息をついた。
「あぁそれと、今は私の全てに愛される力で周りには私達の声が聞こえないようにお願いしているから、表向きの喋り方じゃなくてもいいわよ……」
「なんじゃ、それを早く言わぬか!」
「能力を使っていることに気づいていない方が悪いのよ……」
「それにしても、なるほど、全部お見通しというわけじゃったか。それならば今回ばかりはお主と対立しようとは思わぬし、ワシも気長に八十年くらい待とうかと思っておる。その間に他の並行世界に行っても良いのじゃが……。まぁ、何が起こるかわからぬし、奴らが卒業したらこの世界を旅行でもしながら時間を潰そうと思っておる」
「ホント、ヨーコは旅行が好きね……」
「例え似たような並行世界でも、その世界でしか見れぬものはいくらでもあるからのう。ワシは旅人じゃ、探求という名の好奇心を抑えられる旅人などおらぬよ」
「あら、詩人ね……。素敵だこと……」