Ex7「好みの食材」
今日もいつもの喫茶店で、私達四人で雑談をしていた。
私はカフェインレスコーヒーを、愛さんはいつも通りオレンジジュース、雅彦くんはブレンドコーヒー、ハルくんはレモンティーと、千差万別な飲み物が手元に置かれていた。
テーブルの中央には、バスケットに入った大盛りで揚げたてのチキンナゲットとフライドポテトが鎮座していた。
「みんなってそれぞれ好きな食べ物ってあると思うけど、好きな食材ってある?」
愛さんがまた突然難題を出してきた。
私は慣れっこだけど、それを聞いてなんの得があるのかとか、そういうことを気にしていたら愛さんと付き合っていくのは難しいと思う。
「俺は牛肉。部位はなんでもいいから焼肉食べたい」
「じゃあ、僕は豚肉で。もつ鍋とか食べたことないから一度食べてみたいですね」
ハルくんと雅彦くんが即答した。
私も好きかと言われたら好物の分類には入るけど……。やっぱり運動部の男子ってお肉が好きなのかな……?
「そういうストレートでわかりやすいの嫌いじゃないよ。いいよ、今度ハルくんのお金で焼肉食べに行こうか、うんうん」
愛さんが頷いて何かに納得していた。
実際、食材としては二つとも万能で、手軽に美味しいものが作れるから総合的な面でもかなり優秀な素材だと思う。
「ちなみにアタシは帆立が好きなんだー。食材というより、もはや帆立はそれ単体で料理と呼んでも過言ではないかもしれないんだけどね」
いつもオレンジジュースとかパフェを食べている印象が強かったから、渋くて少し意外な答えで驚いた。
確かにお刺し身でも食べられるし、煮て良し、焼いて良し、炒めて良し。それでいて乾き物にもなるし、思ったよりも汎用性の高い食べ物なのかもしれない。
「ちなみに愛さんは帆立のどの食べ方が一番好きなんですか?」
「うーんそうだなァ。やっぱり刺し身が一番好きかなぁ、ただ物によって味がピンキリなのがネックだねェ」
「確かに僕も回転寿司で帆立食べますけど、やっぱり食材の美味しさがモロに出ますよね」
うーん、私も雅彦くんに何度かご飯を作ったことがあるけど、まだ食材の鮮度とかを見分ける審美眼はないから、私も色々と勉強しなきゃなぁ……。
「で、最後にヒカリちゃんの好きなものは?」
「え、えーっと……。レンコンかな……?」
みんなが割とメジャーなものばかりだったから、ちょっと恥ずかしかった。
「ヒカリ、お前付き合いだけは長いと思ってたけど、そんな好物だったなんて初めて聞いたぞ」
「べ、別にそんな自分からわざわざ言う機会なんてなかったから……。好みの料理ならコロッケなんだけど、食材なら食感が好きだからレンコンかなぁーって思って……」
共感を持ってもらえるかわからないけど、噛んだときの縦にサクッとキレイに裂ける食感がとても好きで時々無性に食べたくなるときがある。
煮物はやりすぎると食感が薄れちゃうし、だからといってサラダだとちょっと硬すぎることが多いから、丁度いい食感のレンコンに出会えると凄く嬉しくなる。
「ちなみにコロッケ好きって言ってたけど、レンコンコロッケはありなの?」
「なしです! そんな好きな者同士を掛け算したら更に美味しくなるなんてのは安易な考えで、素材にはそれぞれの特徴や個性があるから面白いんだと思うんです! コロッケのサクッとした衣は中身がジャガイモやクリームみたいに柔らかい食感や、エビやコーンみたいなプリッとした食感だから活きるんであって、中に硬めの食材が入ってたらコロッケの良さが死んじゃます! かといって、レンコンをコロッケのサクサクの衣に耐えうる柔らかさにしたら今度はレンコンの良さが死んじゃいます!」
「……えーっと、珍しくヒカリちゃん熱く語るねェ……」
あっ……。
気がつくと苦笑いをした三人の姿があった。
「えーっと……。僕はちょっとレンコン料理は作ったことないから、今度勉強してみますね……」
「俺と平野先輩は料理下手だから、今度どこか奢りで連れて行ってやってもいいぞ」
「あっ……、えっ、えっーと……」
思わず両手で自分の顔を隠して俯いてしまった。
「あ、穴があったら入りたい……」




