#67 Re:cycle 第14話
俺とともに走る先生が、飛ばしていた矢印を帰還させていた。
もし事前に待ち伏せていたら場所が変わったりステラが逃げ出したりしてしまう可能性があるから、ギリギリまで粘って介入する必要があった。
「先生! 残っている八本の矢印を二本ずつ高速でステラに向かって飛ばしてくれ!」
「二本ずつじゃと!? それではステラに全部切り払われるだけじゃぞ!」
「大丈夫だ! 俺を信じて――いや、教え子を信じて全部飛ばしてくれ!」
先生の瞳を強く見つめて無言で全てを語りかけた。
「――なるほど、細部まではわからぬが少なくともお主が何者かはわかったわい! 後できっちり説明してもらうぞ!!」
きっと持っていた心当たりが確信になったであろう。政木先生の口角が少しだけ上がるのが見えた。
「レシーブとトスはしてやる! 上手くアタックしてくるんじゃぞ! シキ!!」
先生が走りながら臀部から矢印を八本全て射出し、そのまま音速に近い速度で二本ずつ間隔を開けて射出した。
裏道の中央で仁王立ちするステラ、そしてステラがいる方向へと向かう四人組。
四人組の間を抜けて先生の九尾の印が高速で抜けてステラへ襲いかかる。
「水族館のときは不覚を取られたけど、流石にコレは舐め過ぎじゃない?」
ステラが身体を動かさずハンティングナイフを持つ右手だけを動かして九尾の印を二本切り落とした。
続いて三本目、四本目の矢印がステラに襲いかかる。
「だからさぁ、舐めてるわけ!?」
俺や先生、有紀奈が姿を現していないため、ステラは近くにいるであろう我々に聞こえるように大きい声で独り言を発している。
この大きいナイフを振り回して大声で独り言を発する人間を見て、ステラの方に向かっている四人はどう思うだろうか。
「えぇっと……」
四人が自然と足を止めると、最初に声を出したのはヒカリだった。苦笑いをしながら他の三人の顔色を伺っていた。
「ナイフ持ってるのはちょっとまずいかもしれないねぇ、おもちゃなら良いけど本物だったら激ヤバだし……近づかずに警察に連絡しよっか」
次に声を発したのは平野先輩だった。
我ながら情けない、どうした男子組よ。
「そうですね、僕が警察に電話してみます。あ、それかここって交番近かったですよね、そっちのがいいのかな」
次は雅彦だった。本当に自分が情けない。
「四人とも、何をしているの?」
追いついた先生が、ヨーコではなく政木先生として優しく四人に声を掛けていた。
「政木先生!? あー、実はちょっとヤバそうな子がいて……」
ようやく俺が喋った。昔の俺ってあんなに頼りなかったんだな。
先生がステラの方を睨むように見る。
それに対してステラも政木先生の方を睨みつける。
「邪魔するならヨーコだって許さないよ!」
五十メートルほど離れた距離からステラが大声で威嚇してくる。
穏便にことを進めようとした政木先生に対して、空気を読まずに声を掛けてきたステラに舌打ちをし、苛立ちを隠せない様子だった。
「先生知り合いなんですか!?」
「知り合いというか、悪縁というか……。とにかくみんなここから移動しなさい」
四人が目配せして無言で踵を返す。
小走りで移動する四人が俺の前を通り過ぎた瞬間、思わず声が出てしまった。
「き、君たち!」
俺がここで声をかけるなんて言うシナリオは有紀奈と作戦を練ったときにはなかったし、俺も歴史を変えないためにもなるべく関わらないようにしていた。
しかし、気がついたら声を掛けてしまっていた。
突然声を掛けられた四人は足を止め、全員の視線が俺の方を向いた。
「あ、いや……。よ、様子は見てたから! け、警察には俺が通報しておくから、君たちは逃げることに専念してくれ……!」
それらしいことが頭に浮かんだから助かった。
「はい、ありがとうございます!」
お礼を言ってきたのはヒカリだった。力強くも懐かしい顔が俺の方を見つめてくる。頼りなかった幼馴染は、もはや俺が勝手に作り出したイメージでしかなかったのかもしれない。
「いや、それより早く行ってくれ、俺もあの子と知らない仲じゃないんだ、止めてくるよ」
四人は無言で小さく礼をして去っていこうとしたが、ヒカリだけが一瞬足を止めて再び俺の顔をチラリと見てワンテンポ遅れて去っていった。
これでいい、これだけで。これで四人はまた幸せに暮らせるんだ。
そして、あとはステラという後顧の憂いを断つだけだ……。




