#64 Re:cycle 第11話
カフェのテラスに座り本を片手にレイラはアイスティーを飲んでいる。
すると、向かいの席にドスンと一人の女性が腰掛けてきた。
「どうじゃ最近の調子は?」
他でもない、ヨーコが楽しげにレイラの顔を覗いている。
「最低ね……」
「じゃろうな、それはもうユキナが喜んで日々を過ごしておるぞ。こんな楽しそうなユキナはなかなか拝めんわい」
ヨーコは今の見た目のことなど気にせず、腕を組んでガハハと高笑いをした。
「本当にそれが頭痛の種なんだけどね……。それで今日は何しに来たの……? まさかわざわざそれを言いに来ただけってことはないんでしょ」
「何ということはない、苦言を呈しに来ただけじゃ」
ヨーコは真面目な顔をしてレイラの眼を睨みつけた。
「何のことかしら?」
「何もクソもあるか、ステラのことじゃ。何じゃあの娘は、この前水族館に行ったらワシにも襲いかかってきたわい。どうして未だに放おっておるのじゃ」
「……ユキナを狙うっていうのは許しているけど、あの子またやらかしたの……?」
「はぁ……。お主がそんな甘い管理の仕方じゃから……」
「…………」
ヨーコがキツくレイラの眼を見つめると、レイラはその圧力に耐えられず少しだけ目を反らした。
「ユキナだけを狙うのであれば良いが、アレは周りの無関係な人間をも巻き込むタイプじゃ。お主もワシも一般人に被害が及ぶのは避けたいじゃろうし、狙われる側のユキナでさえレイラフォード以外は基本的に殺さぬ主義の者じゃ。実力があるのは認めるが、アレをけしかけるのは嫌がらせ目的でも些か度が過ぎると感じたわい」
「そうね……。ヨーコの言うとおり……返す言葉もないわ……。それならステラには『人前で人を殺さないこと』『殺して良いのはユキナと閉じた世界の解放に仇なす者だけ』って辺りを徹底させておくわ。申し訳ないけどユキナを狙う点に関しては譲れないから、周りに影響を与えないという方針でやらせてもらうわ」
レイラが深い溜め息をつく。この世界に来てから溜め息の回数が明らかに増えている。
「そもそもステラに関しては、言えばわかるが言わねばわからぬ者じゃ、お主は手綱をしっかりと掴んでおるつもりでも思わぬ事態を引き起こしかねんぞ。レイラフォードとルーラシードの赤い糸を紡ぐのはワシらの使命ではあるが、そこに至る過程も重要であることを忘れるでないぞ」
ヨーコの語気が少しずつ強くなっていく。よほど腹に据えかねるものがあるのだろう。
「これでもなんとか少しは抑えたのよ……。ユキナが高校に潜入しているって知ったら自分も高校に行くって言い出したのよ……。本当に止めるのがやっとだったんだから、本当に……」
「うっ……。アレがワシの受け持つクラスにおるのを想像したら、確かに胃が痛くなりそうじゃわい……。確かにあんな気性の荒いじゃじゃ馬をここまで抑えておるんじゃ、その点についてはお主の苦労も少しは理解出来るが……」
手を頭にあて、ヨーコもつい深い溜め息をついてしまう。
「はぁ……。ヨーコと話せて少し冷静になれたかもしれないわ。ユキナに嫌がらせされているような世界だから、些か意固地になってしまっていたようね……。この世界からの撤退も含めて今後について一度検討するわ」
レイラは氷の溶けてきたアイスティーを一口飲み、頭だけなく喉も冷やした。
「ワシは今ユキナと共に行動しておるし、このまましばらくは続けるつもりじゃ。ユキナに恩が売れるのは今だけじゃろうからな。お主とやり取りしたことはわざわざ伝えるつもりはないが、あまりステラがやりすぎるようじゃったら、今後お主との付き合い方も考え直す故、肝に銘じておくんじゃな」
「そうね、ユキナはもちろんだけど、それ以上にヨーコを敵に回すっていうのもかなり脅威だもの、私としても友好的にありたいものね」
レイラがハァと溜め息をつくと、いつの間にかヨーコの前にクリームがたっぷり盛られたパフェが配膳されていた。




