#56 Re:cycle 第3話
――あれが噂の走馬灯というやつだったのだろうか、幼い頃からのヒカリとの記憶を見ていた。
目を開けると、そこには見覚えのない白い天井があった。
全身が痛み、身動きも取れなければ言葉を発することさえ叶わない。
出来ることといえば、多少目線が動かせるのと、静けさの中に人の声が聞こえる程度だった。
自らがどこでどうしてどうなっているのか、知る術はなかった。
しばらくすると看護師が自らの視界に入ってきたから、初めてここが病院であることを知った。
そう認識してから視線を動かすと、点滴と思われるチューブがいくつかあり、鼻にも何か器具が取り付けられているのを認識できた。
バタバタと周囲が慌ただしくなり、医師と数名の者が俺の元に訪れた。
簡単な診察が行われた後、ケースワーカーと名乗る者が俺の前に現れた。
ケースワーカーから現在の状況を簡単に説明された。自らが名前も身元もわからない重傷者として病院に運ばれ、既に二ヶ月が経とうとしているようだった。
確か四人で遊びに出かけたのが十一月だったから、知らない間に年を越して一月になってしまったのか……。
どうやら、俺は首を大きく切断された際に神経が圧迫されてしまい、両手足がまともに動かせない状態になってしまったということがわかった。
あの瞬間自らが瀕死の重傷を負った記憶から辿って、恐らく何とか生き延びたのだと記憶を補完した。
時間はかかるが根気よくリハビリをすれば回復するだろうとのことだったが、気の遠くなる話で気が滅入ってしまった。
そして何より、家族にも友人たちにも俺の状況を伝えることができず、誰にも会えないのが辛かった。
◇ ◇ ◇
入院して半年が経った頃、喉の方は手術で機能が回復してきたため、短時間ではあるが掠れつつも発声することが出来るようになってきた。
早速担当してくれているケースワーカーに、自分がどこの誰であるかを伝え、そして他の三人がどうなったのかを尋ねた。
数日して『加藤春昭』という十七歳の人物は存在せず、捜索届けが出されている様子もなかったと伝えられた。
そして、他の三人『安藤雅彦』『氷川ヒカリ』『平野愛』については、個人情報であるため安否どころか存在すら知ることができなかった。
親にも友人にも誰からも見捨てられ、自らの存在を否定されてしまった俺は、とてもではないが落ち着いていられなかった。
そんなはずはないと抗議をしたが、ケースワーカーは異様なほど優しい目をしており、内心では異常者を相手に話を聞いていることが伺えた。
絶望をしたまま何も考えることができないまま更に半年が経ち、入院して一年が経ったころ一人の女性が俺の前に現れた……。




