#39 ある美漢 第20話
僕、安藤雅彦は満足していた。
二学期の始業式、あっという間に夏休みが終わってしまった悲しさはあるけど、それ以上に楽しい時間を過ごす事が出来た喜びの方が強かった。
結局、水族館へ行った後は毎週のように、氷川さんと加藤先輩と平野先輩の四人で集まって遊んでいた。
先輩達は恋人同士の邪魔をしたくないからと、僕と氷川さんの二人の方が良いって言ってくれていたけど、僕と氷川さんは四人で遊びたいと言って頑なに折れなかった。
ただ、先輩達も諦めたようでその後はゲームセンターとかショッピングモールとかカラオケとか、お金の少ない学生なりに色々な所へ遊びに出かけた。
時期が過ぎてしまっていたから、夏祭りに行けなかったのが少しだけ心残りだろうか。
夢のような楽しい時間だったから、嫌ではないけど教室に入ると現実に戻された気持ちになる。
「あら、安藤くんおはよう……。何だか気力が満ち溢れた顔をしているわね……」
自席に着く前に篠崎さんに声をかけられた。そういえば彼女はいつも僕より早く学校に来ている気がする。
「おはよう篠崎さん。夏休みは充実してたんだ。終わっちゃったのは残念だけど、これからは週末を楽しみに頑張る事にするよ」
「良い休みを過ごせたようね……」
篠崎さんが微笑む。彼女の笑みは前よりも柔らかくなったような気がしたけど、多分気のせいだろう。
「篠崎さんは夏休みはどうだったの? どこか出かけたり何かしたりした?」
「そうね……。凶器を持った悪の組織の大幹部に道端で襲われたけど、見事に撃退して泣いて帰らせてやったわ……」
真面目な顔で話しているけど、所々で笑うのを我慢しているのがわかった。
「篠崎さん、もう自分で言ってて笑いかけてるじゃん」
「そうね……。思い出し笑いよ……」
口元に手をかけて上品に笑う彼女を見る限り、本当に何か面白いことがあったのだろう。
「はーい、みんな席についてー」
その後も篠崎さんと雑談していると、担任の政木先生が入ってきた。たった一ヶ月程度の休みだったけど、また学校生活が帰ってきたのだと実感した。




