#34 恨み感 第17話
長いポニーテールをなびかせ、ステラは疲れた顔をしつつビルから出てきた。
片手には政木に没収され、近くのビルの屋上へ捨てられたハンティングナイフを持っている。
「まったく……。セキュリティが甘いビルだったから簡単に屋上まで行けたからよかったけど、セキュリティが厳しかったらちょっと面倒なんだからなぁ」
ステラは取り戻したナイフをギュッと握りしめ、改めて決意を固めた。
「この世界の未来を邪魔する者は誰だって許さないんだからな! 見てろよー! ユキナー!」
決意をナイフに込め、ステラはナイフを握りしめたまま右手を天高く掲げた。
「ちょっと君!」
近くにいた警官がステラに気づき、慌ててステラの元に駆け寄ってくる。
「君、そのナイフ本物じゃないだろうね!? そのサイズだと銃刀法違反になる場合があるから、ちょっと話聞かせてもらってもいいかな」
警官は無線で応援を呼んでいるのか、胸に備え付けてある無線機に向かって何かを喋っている。
「むむむ、今日のワタシはちょっと機嫌が悪いんだぞ!」
次の瞬間、ステラは警官の背中を蹴り飛ばしてマンホールの上まで移動させ、即座に吹き飛んだ警官の正面に移動した。
警官の乗ったマンホールの端を右足で力強く叩きつけると、強烈な振動によってマンホールが斜めに浮き上がった。
それにつられるように警官の足元が不安定となり、ステラはマンホールを叩きつけた足をそのまま警官の腹部を蹴り上げると、警官は宙を舞った。
宙に浮く警官の喉にナイフの先端で叩きつけ、頸動脈ごと勢いよく斜めに断ち切り、そのままL字を描くようにナイフを腹部に向かって素早く横に滑らせると、警官の喉からは血が噴き出し、切り開かれた腹部からは臓物がゆっくりとはみ出してきた。
断ち切られた警官だった物は重力に導かれ、そのままマンホールの中へ落ちていき、斜めに浮き上がったマンホールの蓋が閉まると、まるで何もなかったかのように辺りは静まり返った。
ステラの持つナイフには血が付いているが、ステラの服や身体には一滴の返り血も付いていなかった。
そのナイフに付いている血も、ステラが回すように一振りすると、マンホールと道路の隙間に綺麗に収まり、まるで何も無かったかのように痕跡は一つも残らなかった。
一瞬で狙った場所を正確に切り裂き、血液が吹き出るよりも先に高速で移動する。特殊能力ではなく鍛えぬかれた地力。これこそが迅速の名を持つヴェローチェ家で鍛え育てられた者が持つ力。
「あ……。一般人は殺しちゃ駄目だってレイラに言われてたんだった……。あれ? ユキナが盾にしてる一般人は無罪だから殺しちゃ駄目だけど、今の人は自分から世界を救おうとするワタシの邪魔をしたんだし、『世界の解放に仇なす者』ってことで殺していいのかな……? うーん、そうかな? そうかも。うん、うん」
一人で納得したステラは、手に持つナイフをくるくると回しながら来た道を歩いて帰っていくのであった。




