#30 恨み感 第15話
篠崎と政木が水族館へ向かう道中、黒いスーツを纏った黒い短髪の二十代後半くらいの男性が立っていた。
彼の首にはギロチンを切断途中で止めたのではないかというくらい、大きく痛々しい傷跡が残っていた。
「あら、あなたも来てしまったの……? 今はちょうど予定通りステラ=ヴェローチェを追い払ったところよ……。十年前に負った怪我の治療が済んだとはいえ、瀕死の重症だったんだから外出は禁物よ……」
男性は表情を変えず、無言のまま頷いた。
「お主が声をかけたということは、そっち側の人間か? お主が誰かを連れるなんぞ珍しいこともあるもんじゃのう」
政木が男性をジロジロと上から下まで、じっくり舐めるように見続ける。
「私の良い遊び相手よ、誰だかわかるかしら……? 政木先生?」
「何が先生じゃ、気持ち悪い。……うーん、しかしスマンが全く心当たりはないのう」
改めて思いだそうとするも、政木は首をかしげる。やはり見覚えがない様子だった。
「あら、知らないみたいですって。よかったわね」
「まぁ、そうだろうな……。せっかくだ、呼び捨ても失礼だし、俺は敬意を込めて政木先生と呼ばせてもらおう。年上は敬うべきだろうしな」
「敬われるのは結構じゃが、なんか気持ち悪いのう……。まぁ、好きにするがよい」
「俺は『シキ』という名前にしている。ユキナ=ブレメンテがこの世界で篠崎有紀奈を名乗るようにな」
「うむ、詳しい事情はよくわからぬし、わざわざ詮索はせぬが……。お主も並行世界を渡っておるのか? ワシと敵対せぬのであれば、こやつの連れとして同様に扱うぞ」
「あら、よかったわね……。私と同じ扱いをしてくれるんですって、何かやったらすぐに殺すぞって意味よ……。ところでシキ、あなたもこのまま私達と水族館へ行くのかしら……?」
「いや、俺は辞めておく……。二人とステラ=ヴェローチェのことが気になってここまで来たんだが、やはりどうも調子が悪いようだ……」
シキは目線を落とし、少し悲しそうな声で答えた。
「まぁ無理もないわ、この辺りはあなたには辛い場所でしょうからね……」
少しだけ足を引きずりながら歩くシキを見つめ、篠崎は優しくもあり、同族を蔑むかのような微笑みをシキに送った。




