#26 恨み感 第13話
「よぉ、待たせたのう」
水族館の最寄り駅の改札内で政木が篠崎に声をかける。
先に待ち合わせ場所に到着していた篠崎が、明らかに苛立った顔で舌打ちをした。
「本当に待たされたわ、五分の遅刻よ……。教師にあるまじき行為ね……。このポンコツクソ狐……」
「仕方ないじゃろ、電車が少し遅延しておったのじゃ」
「待ち合わせってのはそういう可能性も考慮しておくものなのよ……」
「つくづく真面目よのう……」
二人は何も言わずとも揃ったペースで歩き出し、改札を通って屋外に出ると、そのまま太陽の日差しを浴びながら水族館へ向かった。
「そういえば、前に水族館へ行くのは夏休みの半ばより前と言っておったが、今はまだ夏休みに入ってすらおらぬぞ。確かに前は前じゃが、随分と前じゃのう」
「それに関しては私も想定外の状況なのよ……」
「ふむ。まぁよくわからぬが、それより今日は普通のTシャツとスカートなんじゃな。お主の大好きなゴスロリの服は着んのか?」
「あれは死に装束よ……。私が死ぬ時と命を刈り取る時にしか着ないわ……。そういうヨーコこそ、ワイシャツとスキニーパンツだなんて仕事でもないのに格好つけて、今日は可愛らしい服ではないのね……」
「な、なんじゃ。別にワシは可愛い服なんぞ好きではないぞ!」
篠崎が嘲笑していると、政木が背後に何者かの気配を感じた――!
「九尾の印!」
「……全てに愛される力!」
政木が能力名を唱え、一瞬遅れて篠崎もそれに応じた。
次の瞬間、白い閃光と共に政木の臀部から九本の尻尾が現れる。
尻尾は矢印の形をした薄い紙へと変化し、そのうち五本の矢印が背後にいた人物へ飛んでいき、両手両足と所持していた刃渡り十五センチ程のハンティングナイフに巻き付いて縛り上げた。
そして、篠崎から放たれた赤い閃光を受け、十メートルほど離れた場所に居た数人の男性が意思を持たないゾンビのように猛烈な勢いで襲いかかり、羽交い締めにして身動きを完全に封じ込めた。
しかし、男性たちが身動きを止めたのは政木が九尾の印を使った数秒後であった。
「来るのはわかっていたけど、意外と来るのが早かったわね……。それにしても、壁役の人間と少しだけ離れた瞬間だったから、私一人だったら危なかったかもしれないわね……」
「まぁ、此奴の能力は『探知』じゃからのう。ワシらとその周囲の人間の動きを探知してから攻撃してきたんじゃろうな、貸し借りは無しといったが恩義は感じて欲しいものじゃ」
そういえば捕まえていたのだったと思い出したように篠崎と政木が振り返ると、そこには二人にとって見覚えのあるポニーテールの少女が、身動きが取れない状態で捕まっていた。




