#22 恨み感 第11話
夏休みも近づくころ、帰りのホームルームが終わり、生徒が各々部活や帰宅を始める中で、篠崎は教壇に立つ政木の元に来た。
「政木先生、ご相談したいことがあるんですが……」
「げぇっ」
政木が露骨に嫌そうな顔をすると、篠崎は他人から見えない位置で政木の脛を思いっ切り蹴りとばした。
「うっ……! ぐぅ……。わかったわよ……」
「ご相談、お願いしますね……」
篠崎が厭らしくにっこりと微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「で、なんじゃ。そなたから尋ねごとなんぞ。気持ち悪い」
政木と篠崎は個別面談や進路相談を行う小さな相談室に移動してきた。
篠崎は机に座り、政木は椅子に座って椅子の足を浮かせて壁にもたれかかっている。
「ちょうどタイミングが良かったから期末テストのあとに餌を撒いてみたのよ……。多分面白いものが見れるんだけど、一緒にヨーコもどうかと思ってね……」
「雅彦にちょっかいを出したのは知っておったが、お主にしては珍しい提案じゃな。どういう風の吹き回しじゃ?」
「なんて事はないわ、一つは中立状態のあなたに現状を見ておいて貰いたいから……。もう一つは、この前学校周辺に対して全てに愛される力を使った時に高速クソバカチンパンジーがいる気配があったから、念の為護衛をお願いしたいのよ……」
頼み事をしている側の篠崎であったが、政木に貸しを作るような頼み事をすることへの強い抵抗感からか、顔が少し引きつっていた。
「私の全てに愛される力は最優の能力だけど、私や操った人間の反応速度には限界があるわ。だから、あらゆる面で万能なヨーコの『九尾の印』にお願いしたいと思ってね……。お互いに観察対象に怪我があっては困るでしょ……?」
「高速クソバカチンパンジーまでいくと流石に長すぎじゃろ……。あの青髪のアレのことじゃろ? ホント、お主も難儀な者に好かれてしまっておるのう……。アレはワシと目的は一緒じゃがやり口はどうも好かぬし、同情の意味も込めて今回は貸し借り無しで協力してやろうかのう」
珍しく篠崎を憐れむ顔で見る政木だった。
「それじゃあ、頼んだわよ……。安藤くん達は確実に夏休み半ばより前に水族館へ行くことになるから、具体的な日程が分かり次第また連絡するわ……」
「確実に……? そう言う割には半ばより前とは曖昧じゃのう」
「私だって未来がわかるわけじゃないもの、当然でしょ……」




