#20 恨み感 第10話
夜更け……というには少し早い午後八時ごろ、ポニーテールの少女は高校の前で仁王立ちをしていた。
「くっくっくっくっ……今度こそ覚悟しろ、ユキナ=ブレメンテめ……! まだここに残っていることは知っているんだからな……!」
少女が少し進むと入り口らしきものが見えてきた。
ガラス張りの扉の向こうには賞状やトロフィーが飾られており、壁側には来賓用のスリッパが入った下駄箱があるのも確認できた。
「ここが入り口か……!」
少女はお構いなしにガラス張りの扉を開けようとする。
しかし、当然ながら入り口は鍵がかかっており全く開く気配がない。
しかも、カード認証式であるため、鍵穴をいじって解錠することも叶わない。
「ぐぬぬ……なんで開かないんだ……!」
少女は扉に足をかけて更に押したり引いたり試行錯誤をするが、状況は好転しなかった。
彼女のいた並行世界での『ガラスは高級なもの』という認識が頭に残っているからか、ドアのガラスを割ろうとはせず、律儀に鍵のかかったドアと格闘していたところ、校門の近くに一台の車が止まったのが見えた。
二名の男性が校門を開けて、少女の方へ向かってくる。
「あー、警備会社の者ですが。残ってる職員の人から通報があったんですが、これ君がやってたの?」
青い帽子と作業服を着た二人組の男は、少女の前に立ち質問をしてきた。
彼らは少女よりも遥かに身長が大きく、体格も良い。少女にとっては巨人のような大きさにすら感じた。
「えっ……。いや、あの……」
少女は警備会社の男性達を見上げるように顔を覗いた。
「え? なんだって?」
「えっと……あの、ワタシがやりました……」
少女は少しずつ泣きそうな顔になっていき、警備会社の男性たちもやりづらそうな顔でお互いの顔を見て小声で話をしている。
「とりあえずお嬢ちゃん、ご両親に連絡は取れるかい?」
その声を聞いて、レイラとの『人を殺めてはならない』という約束を守る範囲内での抵抗として、片方の男性の脛を思いっきり蹴り飛ばして校門へ走り出した。
「親なんておらんわー!! バーカ! バーカ!!」
素早い動きで少女は開いている校門を出て、走って闇夜に消えていった。




