#18 恨み感 第9話
期末テストが終わり、各教科の答案用紙が返却されていた。
「次、篠崎有紀奈さん」
政木が一人ずつ答案を返し、篠崎の順番となった。
答案用紙に書かれた点数で一喜一憂する生徒達が多い中、篠崎は堂々とした足取りで教壇へ向かう。
「中間テストもだけど、どんなズルをしてこんな点数を取ってるの?」
政木が微笑んだ顔をしつつも、周囲に聞こえない程度の声量で篠崎に問いかける。
「私はあなたと違ってカンニングなんてしなくても、地力で取れるのよ……」
篠崎は無表情のまま小声で返事をして答案用紙を受け取り、引きつった顔の政木に一礼して自席に戻った。
◇ ◇ ◇
「篠崎さんはテストどうだった?」
篠崎の隣の席の安藤が、自席に戻ってきたばかりの篠崎に問いかける。
問いかける安藤自身も暗い顔はしておらず、人に見せる事が出来る程度の点数ではあったようだ。
「二問ほど間違えて九十六点だったわ。その顔だと安藤くんも悪い点数では無かったみたいね……」
「僕は八十二点だったよ。言い方は悪いけど、僕でも上位に入れる高校で本当に良かったと改めて思ったよ。やっぱり良い成績が取れると、勉強に対するモチベーションが上がるね」
安藤は高得点を取ったことに加えて、テスト週間が終わった解放感、そして何より恋人が出来たことで明らかにテンションが上がっているのが伺えた。
「テスト週間も終わって夏休みも近いし、安藤くんはどこか遊びに行ったりするのかしら……?」
「あー……。えっと、そうだ。もしもって感じで参考までに聞きたいんだけどさ、篠崎さんだったら今、男の人と遊びに行くとしたらどこに行きたいかなぁ……?」
安藤は視線を逸らして少し照れながら、篠崎に問いかける。
あまりにもその目的が分かりやす過ぎて、流石の篠崎も内心では笑うのを堪えるのがやっとだった。
「そうね……。これから夏休みになってお祭りも多いから行ってみたいわね……。あとは暑い季節だから屋内の施設も良いわね、例えば水族館とか……」
「うーん、この辺りでお祭りはしばらく無いし、水族館かぁ。良さそうだなぁ」
もしもの話で始まった話題だが、安藤は腕を組みながらうんうんと唸りながら悩み始めた。
「私に行きたい場所を聞くなんて、どこか連れて行ってくれるのかしら……?」
篠崎はからかうように微笑む。
「あ、いや! 別に篠崎さんとじゃなくて! あぁ! それも違う違う、別に篠崎さんと行きたくないってわけでもなくて!」
安藤をからかったら予想以上の反応をしたのが面白かったのか、篠崎は久しく人に見せたことがないくらい純粋に笑っていた。
「わかっているわよ、大丈夫……。でも、安藤くんのそういうところ嫌いじゃないわ……」