#15 ある美漢 第8話
俺、加藤春昭は溜息をついていた。
雅彦とヒカリの両方から交際が始まったという報告があった。
おめでたいことなのかもしれないが、ヒカリは楽しいことや嬉しいことがあっても、またすぐに落ち込んだり自己嫌悪したりするから不安になる。
小学校の時にヒカリの親が離婚して引っ越していったため、多少連絡は取っていたが中学の時のヒカリのことはそこまで詳しくない。
どうも、男子の制服を着て、髪の毛も腰まであった長髪から肩までのセミロング程度の長さにさせられていたらしい。
本人は気にしていないと言っていたが、実際のところ本心はわからない。
高校を選ぶときも、俺が今の高校へ行くと言ったのを選ぶ要因の一つにしたらしい。
でも、それ以上の要因として、この高校では男子でもリボンを付けてスカートが履けるし、女子でもネクタイを絞めてスラックスが履けるというのが理由だと思っている。
そのおかげで俺はアイツが気にすることなくスカートを履くことができて、喜ぶ顔を久しぶりに見ることができた。
だが、それも少しの間だけだった。女子の制服を着ているが故、高校に入学してからこの一年で何度も男子生徒から告白を受ける事があった。
本来であれば、それは自らが女性にしか見えないという証明でもあるのだが、アイツは性格的なものもあるのか、相手に対する申し訳ないという気持ちで毎回落ち込んでいた。
アイツは男だとか女だとかそういうところで卑屈になっているが、それよりも自分が氷川ヒカリという人間である事に早く気づいてほしい。
俺が言葉で言っても意味がない、自分自身が気が付かなきゃいけないことだからな。
今までヒカリに告白してきた奴らはヒカリの『男』という属性しか見てなかったが、二人からの報告を聞く限りだと雅彦はしっかり『氷川ヒカリ』という人間が好きなのだと認識しているようだった。その辺りは本人よりもよっぽど雅彦のほうが理解しているようだ。
このまま雅彦と付き合うことで、少しは卑屈さが無くなって明るくなってくれると良いが……。
まぁ、それはもう俺が心配することではないんだがな……。