#14 恨み感 第7話
篠崎と政木は雑談を続けており、いまだに自動販売機の前から動いていなかった。
「ところで、安藤くんと氷川って子は見届けたけど、やっぱり何も起きないのね……」
「この世界の赤い糸で結ばれた『安藤雅彦というルーラシード』そして『氷川ヒカリというレイラフォード』……。運命で結ばれたカップルが誕生したにもかかわらず新しい並行世界が生まれぬということは、やはり『愛』のエネルギーが足りないんじゃろうなぁ……」
「よかったわね、もしエネルギーが足りてたら、私は氷川って子を殺さなくちゃならなかったわよ……」
「わかっててくっつけておいてよく言うわい」
「でも、最初にこの世界に来てから、改めてここと似た並行世界に行ってみたけど、そこでは氷川ヒカリは女だったわ……。どうしてこの世界では氷川ヒカリは男なのかしら……。それに相手だって……」
「そもそも男じゃというのに、めしべのレイラフォードとして選ばれておるし、何が起こっておるんじゃこの世界は……。まったく……」
政木はやけ酒でも食らうかのように、緑茶を一気飲みした。
「それで……? 本来は存在するはずのないもう一組の運命のカップルは……? ヨーコも誰かは把握しているんでしょ……?」
「授業も終わったし、この時間なら美術室じゃろうな。ほれ、ここから美術室の窓が見えるじゃろ。あやつもアレで美術部の部長じゃ、普段はとぼけておるが根は真面目じゃからな」
政木が自動販売機の奥にある棟の二階を親指で指し示す。
そこには僅かだがキャンバスの影や、窓辺に乾かしてある筆洗が見えた。
「……なるほどね。安藤くんというピースが嵌った事で全員が繋がる道筋が出来たわけだし、あとは何もしなくても自然と近づいて行きそうね……」
「うーむ、今でも既に別の道筋があったのじゃが……。何とかもう一人のルーラシードにも近づこうと思ってバレー部の顧問にもなったのじゃが、それでも意外と上手く事が運ばなかったからのう」
政木は美術室の方を向きながら、緑茶を飲もうとしたがいつの間にか空になっていることに気がついて、中身を片目で覗いている。
「女しか選ばれないはずのレイラフォードに男の氷川ヒカリが選ばれている……。男女一組しか存在しないはずの運命のカップルが二組いる……。とんでもなく異常な世界ね……」
「改めて言われると頭痛がするわい……。しかし、この状態でお主がリセットボタンを押さぬのであれば、彼奴らの寿命が来るまではお主だけの独壇場じゃな」
「リセットボタンなんて押すわけないじゃない、こんな面白い世界……」