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僕の願い

作者: 倉賀 大介
掲載日:2022/11/07

何なのだ、この満たされない気持ちは。

僕は愛情を欲しているのだろうか。

このどうしようもない苦しみから抜け出す方法を誰か教えてくれまいか。


スマホのアプリケーションを立ち上げ、ひたすら女性の写真の下にあるグッドマークをタップしていく。


見た目などは全く気にせずにひたすら連打。


下手な鉄砲でも数を撃てばいつかは当たるだろう。それに僕の見た目も別に悪くはない。異性もまた僕の写真を見て好意的に思う奴もいるだろう、そんな気持ちだった。


ピロン


着信音とともに通知がきた。


『りなさんからメッセージが一件ありました』


ほら、やってきた。


その後、適当にチャットを繰り返すが、自分の寂しさやつらさばかりを言い続け、相手を一ミリたりとも思いやらない姿勢に僕は失望していた。


"寂しい"


"辛い"


"死にたい"


コッテリとしたメンヘラとでも言えるか。まさにテンプレートと言わんばかりのムーブだった。


だからこそ付け入る隙があるように僕は思った。彼女にとっての理想像にさえなれば、好きになってもらうことは容易いとチャットをする中で感じた。


彼女を抱けば僕の苦しみは少しでも晴れるのではないだろうか。その好奇心から彼女をターゲットにした。



「和樹くん、好きだよ」


彼女が俺の肩にもたれかかる。

正直、重いなと思った。


"君を幸せにしたい"


"君の寂しさを無くしたい"


"君を抱きしめて安心させたい"


"僕は君を幸せにするために生きている"


あたかも自分が本当にそうであるかのように己自身をも騙し、そして彼女に熱量を込めて言葉で伝える。


これが出来る僕にとっては、愛情に飢えた羊を狩ることなんて造作もないことだった。


「ありがとう、僕も好きだよ」


彼女の頭を撫でる。

正直めんどくせーなと思った。

けど撫でていれば、彼女は僕に対する安心感が湧くのだろうな。と思い続けた。


「嬉しい、これからもずっと一緒にいてくれる?」


「もちろんだよ」


僕は優しく微笑んだ(つもり)。

すると彼女もにっこりと笑った。

その笑った際に見える真っ白な歯が、僕の邪悪な心を否定してくるようで疎ましく感じた。


「寂しかったね」


「うん、寂しかった」


「けどもう大丈夫、君はもう一人じゃ無い」


僕は片手で彼女の頭部を撫でながらキスをした。すると彼女が舌を絡ませようとしてくるのが直ぐに分かった。そうだこの類の女は積極的だった。僕は小さく口を開け、伸びてくる舌に対して自分の舌を突き出した。


キスを終えると彼女がトロンとした目で僕をじっと見つめていた。そろそろベッドに連れてゆく頃合いか。


「こうやってくっついていると安心するね」


「ああ、そうだね」


ベッドに入るや否や、彼女が僕を抱きしめてきた。足を絡ませ、僕の背中をしっかりとホールドしている。縋る先が無かった人間は此処まで愛に飢えるものなのだなと思いながら、僕も彼女を抱きしめ返した。


抱きしめ合っていると時折彼女と目が合った。その都度、僕は笑顔(のような何か)をして、その表情が嘘だと勘付かれる前にキスをした。


そしてその後行為に至るまでのありきたりな流れを済ました僕は彼女を下から見つめていた。


彼女はその時をまだかまだかと待ち侘びているかのように見えた。そういえばかっこいいだの好みだの言っていたな。僕の何も知らずに外面だけを見て好きになるなんて本当に馬鹿な奴だ。


「もういいよね、和樹くん」


「ああ。君の好きなようにしてくれて構わない」


僕たちは一つになった。上では彼女が気持ち良さそうに上下に動いている。本当に夢中でただ快楽にだけ身を委ねているかのようなそんな表情をしていた。彼女はいったい何をどう思って、僕と繋がっているのだろうか。はじめて会った男を好きになり、身体もすぐに許してしまう。僕が女なら絶対にこうはなりたくないと思った。


彼女の喘ぐ声が定期的に聞こえてくる。そして僕に対して気持ちいいかどうかの確認を行う彼女を見て、きっと不安なんだろうなと思った。僕に好かれているかどうか、気持ち良くなっているかを直接言葉で聞かないと彼女はきっと安心できないのだろう。だから僕は彼女が求めている言葉をそのまま返した。


暫くして僕は果てた。いや果てることができたというのが適当かもしれない。彼女にどれだけ興味が無かろうとも、僕は其れなりには興奮していた。女の気持ち良さそうな声や僕を求めるその姿に日常では感じることのないイレギュラー的な何かを感じていたのだろう。


「ありがとう、嬉しかったよ」


僕は彼女の頭をそっと撫でた。

彼女は嬉しそうに笑っている。


心にもない言葉でも人を幸せにできるのだと改めて思った瞬間だった。


程無くして彼女は安心したのか眠りについた。

僕は音を立てないように静かにベッドを後にし、浴室へと移動した。


シャワーを浴びながら僕は思った。

彼女を抱くことにより、何かしらの愛着が湧くのではないか、また行為をした後のお互いが裸体の状態ならば、本当の意味で深い領域の言わば僕の暗部についても話すことができるのではないかと。


しかしそんなことは無かった。

僕の中に残ったのは、虚無感や疲労感、徒労感というような類のものであった。行為を終えた後に、彼女に対し自己開示をする気にもなれず、彼女のことを掘り下げて聞きたいとも思えなかった。それに何なのだ、この気持ちは。一人の女性を言葉巧みに騙し、自分の都合に巻き込んだことに対する申し訳なさ。本心を全く明かさずに自分を偽り続けることに対する不快感。こんな筈では無かった、本当は____


✳︎✳︎✳︎


「ありがとう、嬉しかったよ」


僕は彼女の頭をそっと撫でた。

彼女は嬉しそうに笑っている。


「こちらこそありがとね。ただ私、ひとつだけ気になることがあるんだ」


「気になること?」


「うん。それは君がずっと苦しそうにしていること」


嬉しそうに笑っているように見えた彼女の顔がとたんに恐ろしく見えた。


「苦しそう?そんなはずはないよ。君と会ったのは今日が初めてだけれども、本当に心地いいなと思ったよ。君と交わるときだって僕は幸福感を」


「君、嘘をついたり偽るとき、目を細める癖があるでしょ」


僕は彼女を侮っていた。もっと鈍感で自分を構ってもらいたいだけの一言で言うなら馬鹿なやつだと思っていた。だがどうやらそれは僕の見当違いだったようだ。


「君、私のことを正直下に見てたでしょ」


「甘い言葉を呟けば、すぐに惚れるような女だと思ってたよね。でもそうじゃないんだよね、本当は。たぶんどっちかと言うと人の言葉を信用しないし疑り深いタイプだと思う」


「ならなんで君は、馬鹿っぽく振る舞っていたんだ。僕に抱かれるなんて。そこまでする必要はなかったんじゃあないか」


「何故って?男の人ってそういうタイプの子が好きでしょう。それにそうしたほうが君のことを色々知れるかなと思った。あと抱かれたのは君のことが好きだからだよ。たしかに会ったのは今日が初めてだけど、君のプロフィールを見たり、メッセージをする中で、何処か私と似たようなものを感じた。そして会って君の表情を見たとき、私は思ったんだ。ああ、この人は私と同じように死にたがっているんだなあと。そんな君も私は好きよ」


彼女が僕を抱き寄せた。さっきまでは不快だと思っていたこの温もりも何処か心地よいもののように思えた。


「和樹くんはきっと寂しかったんだよね。ずーっと一人でよく頑張ってきたと思う。本当の自分を理解してくれる人を探してたんだよね。けれどもその思いとは逆に、君は取り繕うことが得意になった。他人がどうすれば喜んでくれるかがわかるようになったから、自分を曝け出すことが出来ない、誰も君が無理していることに気づかない。他人の求める姿であり続けるなんて誰だってできることじゃないよ。君は他人思いで優しい人間だと思う。そんな君が好きだよ、もう君は一人じゃない。」


彼女が優しく僕に口づけをした。冷えた心が暖かくなってゆくのが分かった。僕はこういう人との出会いを待ち望んでいたのだ。僕の言葉の節々や数々の動作から本当の僕を組み取ってくれる人を。


✳︎✳︎✳︎


そんなに都合よく自分を分かってくれるような人と出会えるはずもない。今、目の前にいるのは僕の嫌悪する有象無象の類の女であり、思い描くような人ではない。


僕が性欲が溢れんばかりにあり、女を抱くことを目的とするような人間だったら本当に生きやすかったと思う、今回のように適当に女を引っ掛けて抱いてしまえばよいのだから。だが僕が求めるのは僕を分かってくれるような人間。果たして何処にいけば出会えるのだろうか。


久しぶりに行為をしたが、そこから何かが発展することは無かった。することでもっと心のやりとりが出来ると思っていたがそうではなかった。


そもそもの順序がおかしいか。先ずはお互いが理解し合い、その先で行為をするからこそより深い心の会話ができるのだ。はじめをすっ飛ばして、いきなり繋がるからおかしいことになる。


僕はきっと他の人間よりも分かりづらい人間だと思う。分かりづらいしすぐに取り繕うから本心で何を考えているかが分からない。そんな僕の心を汲み取ってくれる人はこの世界にいるのだろうか。


そんな人がいるなら共に生きたいと思う。


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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女の主人公への言葉の数々にどきりとさせられました。 まさか相手が自分のことを深く理解していたとは。順序を間違えなければ彼女と共にいることで、主人公も孤独を癒すことができたのでしょうか。これ…
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