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ラジオ黙示録

作者: 飛罪 怒羅卯

「今更ラジオなんか貰ってもなあ」


 僕はばあちゃんから貰ったラジオを、封も切らずに自分の部屋のテーブルの上に軽く放り投げた。

 ラジオはスマホでも聴ける時代だ。ラジオとしてしか使えないラジオを貰っても使わないよなあ。まあくれたものを無下にはできないし、ありがとうとは言っておいたが、使うこともないだろうしどうしようか。

 テーブルに投げられたラジオは何故か包装のフィルムが壊れて天井近くまで高くバウンドした。いや、そんなに強く投げたはずないんだけど。

 頭上を舞うラジオは、そこから物理法則を無視したような軌道を描いて僕の顔面目掛けて飛んできた。


「は?」


 咄嗟のことで反応できず、ラジオは僕の額に激突する。


「いってぇ!」


 まるでゲンコツで殴られたかのような衝撃。ラジオはポトリと床に落ちた。

 いや、おかしいだろ。今何が起こった?

 部屋のど真ん中で棒立ちしたまま痛む額をさすりながら困惑していると、操作どころかまだ電池も入れていないはずのラジオから声がする。


『貰ったものを粗末にするとは何事だ』


 ……は?

 もしかして、ラジオが喋った?


 次の瞬間、さらに驚くべきことが起こった。窓の外から、ひとつの小さなラジオが僕目掛けて飛んできたのだ。ラジオは窓ガラスをぶち割って僕へ向かってくる。


「わわっ!?」


 僕はそれをすんでのところで回避したが、さらに二つ目、三つ目のラジオが窓ガラスを突き破って飛来する。ガラスを突き破るほどの威力でラジオのような鈍器の直撃を食らったらさすがに死んでしまう。僕はRasさんのキャラコン並みの身のこなしで間一髪でそれを避け続けた。

 ラジオの襲来はさらに続き、十や二十は下らないであろう夥しい数のラジオが次から次へと僕の部屋に飛び込んでくる。さすがに体力の限界が近づいてきた、と思ったところで、ようやくラジオの襲来は止んだ。部屋の中には小型のラジオが山のように積み上げられている。何なんだこれは?


 ふう、と一息ついたのも束の間、床に転がったラジオがガタガタと動き出し、一箇所に集まって、手足、頭部など等身大の人間のような姿を形成し始めた。


「ひっ……」


 身の危険を感じた僕は、恐怖のあまり家を飛び出した。

 何だか知らないが突然妙なことが起こっている。これは悪い夢なんじゃないか、と思い頬を抓ってみたが、普通に痛かった。そもそもこの確認方法で夢かどうか本当に確認できるんだろうか。

 などと考えているうちに、人型になったラジオの集合体が玄関の扉を蹴破って出てきてしまった。


「あれ……絶対僕を追って来てるよな……」


 僕はすっかり夜の帳が下りた街の中を一目散に逃げまわった。人型のラジオはガシャンガシャンと凄まじい音を立てながら僕を追いかけてくる。しかも驚くべきことに、ラジオは走りながらもみるみるうちに巨大化していた。周りの家や建物から、窓ガラスを突き破ってラジオが集まってくるのだ。

 住宅街を抜けて、僕とラジオは大通りに出る。家を飛び出した時には僕と同じぐらいの背丈だったラジオは、いつの間にか身長4、5メートルぐらいの巨人に成長していた。


 こうなると大騒動だ。街行く車や通行人もパニックを起こし始める。街中を駆け回る異形の黒い怪物を目にして、皆悲鳴を上げ、またはクラクションを鳴らしながらラジオから逃げてゆく。これだけ多くの人間がいても、ラジオはずっと僕を追いかけてくる。やっぱり標的は僕のようだ。


 と、その時。ラジオと僕の間に敢然と立ちはだかったものがあった。

 警察である。

 誰かが通報したのか、それとも騒ぎを聞きつけてやってきたのかはわからない。僕の目の前にパトカーが二台横づけに停められて、中から数人の警察官が飛び出す。


「止まれ!」

「両手を上げろ!」


 これにはさしものラジオも立ち止まった。武器も持ってないしそもそも人間じゃない奴に両手を上げろも何もねえだろとは思うけど。

 ラジオと警察の睨み合いは数秒間続いたが、その間にもラジオはムクムクと成長してゆく。ラジオは再びおもむろに動き出した。警察官の一人が慌ててホルスターから拳銃を抜き、ラジオに向けて発砲する。が、銃弾はラジオのプラスチックの装甲をわずかに凹ませただけで、大したダメージは受けていないようだった。他の警察官も拳銃を構え、立て続けに発砲したが、ラジオはびくともしない。

 ラジオは手(にあたる部分)を振り上げ、パトカーとその周囲にいる警察官たち目掛けてそれを振り下ろした。


「ぎゃぁっ!」


 パトカーの一台が古い座布団のようにぺしゃんこになり、逃げ遅れた一人の警察官がミンチと血だまりに姿を変える。


「うわあぁぁっ!」

「人殺し! 人殺しだ!」


 現場は再びパニックになった。将棋倒しになって転んだ人々を容赦なく踏み潰しながら追いかけてくる。非常事態宣言が発令され自衛隊の戦車が駆け付けた頃には、ラジオはもう関東中のラジオを吸収して東京タワーより遥かに大きくなっていた。

 戦車やロケット砲による砲撃が始まったが、飛来するラジオに阻まれてなかなか本体に直撃しない。当たったとしても、その傷はすぐにまた新たなラジオで補修されてしまう。


 これでは埒が開かない。日本政府はついに核爆弾による攻撃をアメリカに要請した。

 日本近海に到着した米国の原子力潜水艦から、核弾頭を搭載した弾道ミサイルが発射される。

 いかにラジオといえども、核爆発の前には無力であろう。人類史上三度目の戦略核の使用がまたしても日本で行われることにごく一部から非難の声が上がったが、尚も巨大化し続けるラジオの恐怖の前に封殺された。もはやラジオは人類全体の脅威、国際問題となっていたのだ。


 弾道ミサイルは予定通りの軌道を描いてラジオに向かって行く。

 今度こそラジオは終わった――と思われた。


 が、しかし。

 弾道ミサイルが直撃する寸前、ラジオは世界中の人類の鼓膜に響くような大音量の奇声を発した。

 音とはつまり空気の振動である。強烈な空気の振動に晒された弾道ミサイルは、空中で錐揉みしながらあらぬ方向へ飛んで行く。そして、この時既にラジオの頭部は成層圏に達しようとしていた。


 世界中のラジオを吸収したラジオが再び奇声を上げる。その空気の振動は嵐を呼び、大地を割り、大津波によって地表の大部分が被害を受け、人類は滅んだ。

ちなみに今年の誕生日に婆ちゃんからラジオをもらった部分は実話です。

放り投げてはいませんが未開封のままテーブルの上に積んであります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはホラーなのか? ギャグじゃないか? などと思いつつ、テンポがよく、楽しく読み終えました その後、あらすじにも笑いました ラジオって、中々難しいお題ですよね
[良い点] 最後の大音響以外はラジオである必要はないし、類似のおバカSFは何度も見たことがありますが、それでも面白いものは面白い。 この手のナンセンスはホラー2022企画では短編650作の中でも他に2…
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