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お題シリーズ3

突然の雨

作者: リィズ・ブランディシュカ



 校庭を走っていると、ときどき帰宅するあいつの背中を見つける事がある。


 私は憎々しい気持ちをその背中にぶつける事しかできない。


 彼の背中を黙って見つめる事しかできない。


 彼はもう、身内ではなんでもないのだから。


 部外者に粘着して何かを言うのは、嫌だった。


 それに、そんなやつにかまっている時間も余裕もない。


 時間のない私には、やるべき事があるのだから。


 けれど、普段はなさないあいつとの時間が、思いのほかはやくやってきた。






 その日は、突然、雨が降って来た。


 いきなり降って来たものだからみんなびしょびしょになってしまった。


 陸上部の皆で大会に向けて練習していたのに、これじゃあ部活が続けられない。


 私達は、残念な気持ちで道具をしまって、部屋の中に避難した。


 屋内トレーニングのメニューもあるけど、実際に外でやるのが一番だったのに。


 学校のシャワーをあびたあと、風邪をひかないように皆を注意してまわっていく。


 でも心はずっと天気の事ばかり考えていた。


 はやく雨やんでくれないかな。


 私達陸上部は、外で走ってこそ、成果がでるものなのに。


 がっかりした気持ちで窓の外を眺めながら、トレーニングを再開。


 校舎の廊下を走る練習に集中する。


 屋内部活の人達や、居残りの生徒、先生たちが通るから、ぶつからないように気を付けないと。


 そんな事を考えていたら、ちょうどその居残りの生徒がやってきた。


「やあ、励んでいるね」

「どうも」


 私はその男子生徒が嫌いだ。というか憎んでいる。


 だから、軽く挨拶してその場を離れたのに、向かいの壁まで走ってまたもどってきたらまだそこにいた。


「根をつめすぎるのは良くないよ、リラックスしていこう」

「部外者が口を挟まないで」


 人の気も知らないで。


 と睨みつける。


 私は三年生。


 今年で最後の大会なの。


 もうチャンスがないのよ。


 だから必死に練習しなければ実力がつかないのに。


 そう思っていたら、彼は嫌な事を言ってきた。


「頑張っても報われない事もあるんだから」


 私はイライラした。


 彼は私にイジワルをしに来たのだろうか。


 立ち止まった私に、彼は違う違うと手を振った。


「イジワルだけどイジワルじゃなくて、なんて言えばいいのかな。ほら」


 彼は、窓の外を指さした。


 外は相変わらず雨が降っていた。


 先ほどより、ひどい。


 土砂降りになっていた。


 これは当分やみそうにない。


「君が頑張っても、これはどうにもならないだろう」

「天気と人間の努力を一緒にしないで」

「かわらないさ」


 よりによってこの男に言われたくなかった。


 陸上部を引退して、ただのうのうと過ごしているこの男に。


 彼は、陸上でいい成績をおさめていた。


 私が手をのばしても届かないくらいの才能をもっていたのに。


 そういう人間には、私の様な人間の気持ちは分からないのだろう。


 簡単に投げ捨ててしまうそれをえるために、どれだけ頑張っているか知らないのだろう。


 なんで走らなくなったのか。


 走る事以外に良い所なんてないくせに。


 今、勉強で居残りするくらいなんだから、どうせ頭は良くないのに。


 けれど、彼は普段は浮かべない笑みを浮かべた。


 人を嘲るような笑みだ。


 陸上をやっていた時は朗らかな笑みを浮かべていて、やめた後もずっと悲しそうな笑みを浮かべていたと言うのに。


 今だけは違った。


「大会を運営する人間はどうにもできないし、古い慣習もどうにもできない。お金持ちや権力を持った人間の思い上がりもね。君ならこの意味が分かるよね」


 彼はそういってズボンのすそをまくり上げた。


 そこには傷跡があった。


「まさか、そういう事なの」


 彼はいつも通りにっこりと笑って、その場を去っていった。


「ごめんね」と小さくつぶやきながら。


 土砂降りの雨に、雷の音が混じった。


 私は変わってしまった彼の背中を見つめる事しかできなかった。



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