四月一日。麗子さんがゆく~裏語り~
四月一日に「嘘」をテーマに投稿しようと思って書いた作品です。
「物語り」との二部構成になります。
こちらの「裏語り」は「物語り」を読んだ後にお読みください。
楽しんで頂けた方は、よろしければ彼女が登場するほんわかコメディ風ホラー「そのスカートの下は──」もお読み頂けると幸いです。
私は嘘が嫌いだ。
私は嘘が嫌いではない。
人を騙す、そんなこと口が裂けたって言えやしない。
人を騙す、そんなこと口が裂けたって言える。だって口裂け女だもの。
私は嘘が嫌いだ。
私は嘘が好きだ。
酷く滑稽に感じて、全くもって笑えやしない。
酷く滑稽に感じて、全くもって笑えるったらありゃしない。
少し前から、巷に私と同じようなマスク着用者が増えた。
少し前から、巷に私と違った理由でのマスク着用者が増えた。
以前はアイドルやスポーツ選手のごく一部くらいだったように思う──
気を遣っているなと感心して見ていたものだ。
人間とは大変だなと感心して見ていたものだ。
まだ少し肌寒さを感じる中、赤のロングコートを羽織って街を歩く。
人であればまだ少し肌寒さを感じるだろう中、赤のロングコートを羽織って街を歩く。
人の営み、喧騒が何と賑やかで心躍らせることか。
人の営み、喧騒が何と煩わしく心沈ませることか。
私はあまり静寂を好まない。
私はなかなかに静寂を好む。
眠らない街が大好きだ。
闇に沈む街が大好きだ。
「~♪ ~♪」
信号から流れる通りゃんせの音に耳を傾ける──
この音も消えてしまうらしい、私は好きだったし賛否両論あるらしいが、多数が強いのもまた世の摂理というものか。
多数が強いのもまた人の世の摂理というものか。
「いや、離して下さい」
(離せっての、バカ面共。安い女じゃねえんだよ)
「えー、そんなこと言わないでさー。ホント可愛いねー」
(顔と身体はまあまあだな。早く着いて来いっての可愛くねー)
「そーそー、俺らとイイことして遊ぼうぜ。優しくしちゃうよ~」
(俺らにとってはのイイことだけどな。今日四月一日だし)
何とも気をそそられない誘い文句だ。
何とも舌なめずりしたくなるくらい甘美な響きの誘い文句だ。
視界から外れた建物と建物の間のよくある細い路地。
人の視界から外れた建物と建物の間のよくある細い路地。
社会が淀んでいるとどうにもバカが出やすい、鬱憤が溜まってしまうのだろう──
少しは同情する。
実にありがたいことだ。
──さて、ここからは少し本気出さないとね。
──さて、ここからは少し本当も交じるわよ。
「そんな釣れない子猫ちゃんより私と遊んでみない? 優しくしてあげるわよ? イ・イ・こ・と」
(激しくしてあげるわよ。イ・イ・こ・と)
少し自分の胸や太ももを色っぽく撫でるだけで、男たちが鼻をのばした。
「マジ? いや~、お姉さんみたいにホント綺麗な人に誘って貰うなんてラッキー。もうね、俺ホントお姉さん一筋だから!」
(うっひょー、巨乳、色白、黒ロング。最高かよ! セフレ決定!)
一人が肩を抱いて来るので誘うように科を作って応えてやると、もう一人も俺にもわけろとばかりにがっついて来る。
そうして二人の意識が私に向いたのを把握し、二人の意識の外でシッシと手を動かす。
未だ次の動きを取れていなかった子猫ちゃんはそこで漸く気付いたのか、少し逡巡するも逃げ出した。
暫く──
それから私が優しくイイことして男共を昇天させてあげた所で、私はお気に入りの血のように赤いコートを羽織り直して外に出る。
それから私が鋏ではらわた引き裂きくり抜いて、あまりの気持ちよさに、されど言葉も出せない男共を真っ赤に染め上げ昇天させてあげた所で、私はお気に入りの血を吸った赤いコートを羽織り直して外に出る。
今日は四月一日──
わたぬきとも読む、そんなこと、多くの人間にとってはどうでもいいことかもしれない。
先程の子猫ちゃんが未だウロウロしていたので、顔を見せてやった。
マスクは当然したままね。慣用句。
どうやら警察に連絡するべきか、でも私が本当にそういうつもりだったらと迷い悩んでウロウロしていたらしい。
私が軽くあしらったから問題ないとアピールすると、子猫ちゃんはホッとしてから尊敬するような眼差しを浮かべ、何かお礼できることがあればと名刺を渡してペコペコお礼を言って帰って行った。
(カッコイイお姉様素敵! お持ち帰りされたい!)
可愛いものだ。味見したくなる。
可愛いものだ。少し恐怖に染まった顔も見てみたくなる。ただ──
私は綺麗な子猫ちゃんに手を出す程、外道ではない。
私は嘘が嫌いだ──
私は嘘が嫌いなこともある──
だから、真実を知りたい者だけが、この先を見るといい。
だから、真実を知りたい者には、ここを見せてもいいと思った。
「ねえ私、綺麗?」