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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女の罪状

作者: 愬月茉乃

 僕は、森で出会った少女に恋をした。


 少女は美しい亜麻色の髪を持ち、病弱と言えるほど白く透き通った肌、全体的に線の細い印象を与える。誰もが美しいと絶賛するであろう容姿を持つ彼女は、魔法が使えた。


 僕が彼女と出会ったのは偶然だった。


 第二王子である兄が、魔獣を討伐すると言って森に行くことになった。王位は優秀な息子にくれてやると言っていたので、成果を残したいのだろう。どういう経緯か覚えていないが、何故か僕も討伐に参加することになっていた。僕は当時十才だったが、剣の腕はそこらの騎士よりも良かったからだと思う。


 兄は人望に熱く、討伐には大勢が参加した。しかし、そう簡単にはいかず、討伐は難航した。森に進んでいくにつれ靄もかかり、僕は皆とはぐれてしまった。


 森をさ迷ううちに夜になった。雲がどんよりと広がり、暗いので動くこともできず一人で凍え死ぬと思った所で僕は彼女に出会った。


「ねぇ、君?こんな夜遅くに何してるの?」

 

 一瞬訳が解らなかった。声は自分の上からする。しかし、木に登っているとは考えずらい。僕は声のする方を見ると、箒に乗った少女が月明かりに照らされていた。


「……森に迷った。君は何で箒に乗っているの?」


「ちょっと待って、おりるからぁぁっ!うぁ!」


 箒は地面に垂直に落下し、彼女は振り落とされた。


「大丈夫?」


「私は大丈夫。君は森に迷ったんだっけ?」


「うん」


「私が振り落とされたのを見た後で悪いけど、箒で送っていくよ?君の家はどこ?」


落とされそうで心配だが、ここで凍えて死ぬよりはましだ。


「王城」


「あ、王子。うん。……送らせて頂きます。」


「急に敬語使わないで。歳も多分近いし。」


「じゃあ、送っていくよ!ちょっとこの箒小さいけど乗って」


彼女が箒に腰かけて、僕も同じように乗った。


「おっと、そう言えば自己紹介が遅れたね。私は魔女の末裔。魔法が使えるただの十歳の子供だよ。名前は教えてあげられないんだが。」


 彼女に王城の門前まで送ってもらい、僕は今度お礼をすると言って会う約束をした。


 数日後、森の入口で待ち合わせをして、彼女が森にある小屋まで案内をしてくれた。彼女と彼女のお母さんに感謝を伝えると、アップルパイを焼いたといってご馳走してくれた。焼きたてのパイは甘くてどこか懐かしく、とても美味しかった。三人で喋っていると、いつの間にか夕方になり、また会う約束をしていた。


 彼女は僕に森を案内して、魔法を見せてくれた。ある日、ふざけて彼女の箒にひとりで真似して乗ってみると数秒間浮いた。それで僕も魔法を使えるのか駄目元でやってみると、何故か使えたので、それから魔法を教えて貰うようになった。


 最初はただ単に魔法と年の近い子供への興味だった。どちらも僕の周りには無かったからだ。しかし、次第に彼女を好きになり、恋をしていた。もしかしたら、最初に会ったときから一目惚れだったのかもしれないが。


 僕が彼女に会うために森に通い始めると、城を抜けるところを僕の護衛の騎士に見つかった。その人は優しかったので、黙っていてくれたし、森で何をしているのか詮索もしなかった。


 森に通い始めて一ヶ月たつと、他の人にもばれた。彼女に習った魔法で色々誤魔化していたが、やはり駄目だったらしい。何故王城を抜けたのか追求をされた。


「あの森に通っているのだな?」


そういって王は僕に問いかけた。彼に嘘をついてもばれるので、正直に話していった。


「はい」


「何のためだ」


「友達に会うためです」


「あの森にあるのは魔女の小屋のみだ。友達は魔女の娘か?」


「はい」


「もう、今後一切会うな。お前も王族としてしっかりしろ。国民に示しがつかないじゃないか」


 最近知ったことだが、現国王、僕の父はとくに魔法を嫌っている。魔法はまやかしだとして、国として魔法を忌み嫌っている。その為に、人目を避けるため魔女は森の中で住むようになった。


「はい」


「そこのお前、魔女に会っていたことを知りながら止めなかったということで、王子の護衛の騎士は解任だ。」 


 いつかの僕の行動に目を瞑ってくれた騎士を指差して王は言った。彼に反論の余地はない。魔女を嫌うのもどうかと思うが、僕は、僕のわがままによって、一人の騎士を解任させてしまった。


 もう僕は、少女に会うことは出来ないだろう。僕から離れた所の何処か遠い場所に引っ越さなくちゃならないから。それに、彼女の名は分からない。彼女は親に教えてはいけないと言われていたからだ。僕の分かる手掛かりは容姿位でとても少ない。探しようもないのだ。


◇◇◇◇


 それから十年の歳月が過ぎた。


「だから、あのとき殺しておけば良かったのに。先王は優しすぎましたね」


 そんな声が聞こえてくる。


 僕は目の前にいる魔女の罪状を読み上げる。今回流行り先王も亡くなった疫病を流行らせた張本人として、有罪が下されている。この国の王子として、国家の反逆者を裁かなければならない。この魔女も、もうここまで来たらどうにもなら無い。


 ──例え、その魔女が僕の初恋の人であっても。


 初めて君の名前を知り、そして呼ぶのが、こんな場所なんて。


 僕のことなんてとうに忘れているのだろう。たった一ヶ月しか会ってないのだから。


 僕の思い出から更に美しく成長した彼女と、目があった。そして、とても哀しい顔をされて顔を俯かせる。


 彼女にそんな顔をさせてしまったことに悲しみを覚えたが、同時に覚えていてくれたと言う事実に喜んでいる自分がいた。



 その後、僕にはやはりどうすることもできず、彼女は赤く、燃え、苦しんでいたが、一瞬、木洩れ日の下で見たあの笑顔を一度僕に向けたように思えた。

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