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プロローグ

「ねぇ、フランボワーズ。お願いがあるの」

 ベッドに寝転んだまま、痩せ細った少女は枕元の椅子に腰かける友人へと語りかけた。

「はい、なんでしょう、プリュネ様」

 座っている女性は、まるで歌姫のような美しい、赤いドレスに身を包んでいる。赤毛というには随分と色の淡い薄紅色の髪は珍しい色合いだが、それすらも美しかった。

「フランボワーズ、わたし、もうすぐ死ぬでしょう?」

「はい、プリュネ様」

 細い息の下から囁かれた、内緒話のような恐ろしい言葉に、女は眉ひとつ動かさずに残酷な答えを告げた。

 しかし、事実であった。少女が生まれてすぐに患った病の名を、眠り病と言う。冬の長いこの国の風土病である病で、まるで栗鼠や熊のように、気温が下がると体の機能がどんどん低下していく。しかし動物のように栄養を蓄えることも出来ないまま、体は弱り、死んでいってしまう、恐ろしい病だ。

 平民よりは食事の豊かな貴族の間では昔よりも死者は少なくなったが、それでも彼女の病状は医者も匙を投げるまでに進んでいた。

「ええ、そう、そうなの。死女神はもうわたしのベッドの下にいるわ。だからフランボワーズ、お願いがあるの」

「はい、なんでしょう、プリュネ様」

 はぁ、と絞り出すように細い喉から呼気を漏らし、頬の色などとうの昔に失ってしまった少女は、ほそほそとだが確りと告げる。

「フランボワーズ、あなたはずっとお父様の傍にいてあげてね。お父様は、お母様を亡くした時もとても悲しんで、泣いていたわ。だからね、フランボワーズ、お願いよ。お父様の傍にいて。お父様を守って。お父様の、言うことをちゃんと聞いて」

「はい、プリュネ様」

 苦しい息の下から、咳交じりに切々と訴える少女の声に対し、女の声は少しも揺らがない。表情も全く動かないまま、ただ少女の願いに是と応え続ける。

「お願いよ、フランボワーズ、わたし、わたし――はっ、ぅ、」

 ひく、と少女の喉が震え、呼気が出せなくなる。すっかり萎えてしまった少女の体は、声どころか息すら碌に吐けなくなっていた。苦しそうに蹲り、ぜえぜえと喉を鳴らす少女を、女はただ紅玉のような瞳で見つめ続ける。何も言わずに。

「フランボワーズ、わたし、」

「はい、プリュネ様」

 シーツの隙間に囁くように、少女の最期の言葉が零れた。





「しにたく、ない、なぁ……」












「はい、プリュネ様」


 彼女は、その言葉に是と応えた。


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