008 自信と慢心
それから3年が経過した。
気が付かないうちに大熊係長は退職していた。
そして、幹部候補の総合職である俺は、上司先輩からの無茶ぶりに堪え、数多くの業務をこなすようになっていった。
エクセルの関数知識は中級を超え上級に達し、社内でも有数のエクエル使いと評されるようになった。
今になって思えば慢心していたのだろう、なんでもエクセルで処理すればいいと考えていた。
そんな中、会社重役肝いりのパッケージシステムが導入されることが決まり、それを活用した業務改善プロジェクトが社内横断的に組まれることになった。
業務課のエクセルマスターと呼ばれていた俺にも白羽の矢が立ち、プロジェクトリーダーを務めることになった先輩から、中核的な役割を期待されていた。
そのパッケージシステムというのが、平易なエクセルを作るレベルの知識があれば、データベースアプリケーションを作ることが出来ますという謳い文句だった。
俺は一通りマニュアルを読み、一通り触って、一通り作ってみた。
俺の中で出した結論は『使えない』だ。
理由はエクセルで使えていた計算機能、文字列関数に使えないものが数多くあるということだ。
俺はプロジェクトリーダーから意見を求められたときにこう言った。
「こんな使えないものを社内に展開するのは絶対反対です。」
「エクセルで今まで出来ていたことが出来なくなるのなら、業務改善の意味が無い。」
プロジェクトリーダーは少し顔をこわばらせながら聞いていた、そして最後にこういった。
「君はエクセルの知識・技術は豊富なんだね。」
技術はの『は』のアクセントが若干強いのが気になったが、その通りだと思ったのでうなずいた。
「わかった、君には総合職としてもっとやってもらうべきことがあるようだ。」
「改めて野中係長と話し合うよ。」
そういってプロジェクトリーダーは部屋を出て行った。
その通り、幹部候補である俺の意見は尊重されるべきだと思うし、そもそもこんなプロジェクト自体が無意味なんだからやめてしまえばいいとすら思っていた。
そして半月後、朝に出勤すると、野中係長とともに社長室に呼ばれた。