007 大熊係長休職す
部屋のドアが勢いよく開き、白衣を着た人が飛び込んで来た。
あっ、技術開発部の林係長だ。
なぜ知っているかというと、新人研修の時の講師をしていた人だからだ。
誰かを探しているようだな。
こちらを見て駆け寄ってきていきなり。
「野中!」
「どうしたんだ、そんなに慌てて。」
知らなかった、野中主任の同期だったのか。
「大熊さんが交通事故で帝都大学病院の集中治療室へ担ぎ込まれたらしい。」
「えっ、それは確かなのかっ?」
「俺も総務の奴から聞いた。警察からの照会電話でわかったとのことだ。」
「奴・・・ってだれだよ。」
「って、総務の田中だよ。こんな時でもレンジャーか?」
「こんな時だからこそだろ、『伝聞推定ではマクロは組めぬ。』だ。」
「わかった、とにかく病院へ急ごう。」
そのまま二人は大急ぎで部屋を出ていった。
後日、社内のイントラに大熊係長の総務課への異動と、課長ポストから総務課付きへの降格が掲示された。
これは長期の休職を意味することが多く、そのまま退職する人も多いと聞く。
「なんてこった、幹部教育の講師が、それも一番要になる人が・・・。」
野中主任が隣で嘆いている。
これが後日それほど大きな問題になるとは、その当時の自分では想像もつかなかった。