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006 師匠の師匠
「ちなみに入社したのは同じ日なんだよ。」
大熊係長は中途採用、野中主任は新卒採用。
もっといえば、大熊係長は技術職、野中主任は総合職で採用されている。
「新卒研修が終わったあと、俺は大熊さんの下につけられたんだよね。」
総合職つまり幹部候補採用が中途採用の技術者につけられるなんてことがあるのか。
そんなことを考えていたら、野中主任がまたニヤリとした。
「まあ普通はないわな、今なら。」
そうなんだ。
この会社は2年前に社長が変わり、職種による明確な「区別」制度が導入された。
総合職が仕事を教わるのは総合職に限定されている。
たから、野中主任のようなケースは今は無い。
「俺も最初は思ったよ、こんな技術屋に俺の教育が出来るのかってな。」
遠くを見る目で思い出すように話してくれた。
「当時は顔に出てたと思うよ。ただね・・・。」
少し険しい顔になった。
「そんな感情は3日目で無くなった。」
どういうことだ?
「あのころの大熊さんはとにかく恐ろしかった。全身からものすごいオーラが出ていたんだ。」