表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕立て屋 小林綺壱朧の犯罪  作者: くわっと
6/8

6.理由

理由なき殺害と理由のある殺害、どちらが正義だろうか。

小林さんは、その問いには答えない。

彼女の辞書に『正義』なんて単語は存在しないからだ。

僕と小林さんと『初めて』の共同作業。

ケーキ入刀よりも、遥かに血生臭い行為。

一撃で、亀の甲羅は粉砕された。

金槌という、原始的な構造の文明の利器。

その用途は単純に威力増強。

物を破壊するか、何かを打ち込むための道具。

よもや、自分がこのような用途で使うことになるとは思わなかったけれど。


「はい、では次からはお一人でお願いしますね」


小林さんは、次の犠牲者を水槽の中から取り出した。

背中には『亀美』と書かれている。


「ほら、早くしないと日が暮れてしまいます。もしかして、私と一つ屋根の下、一晩過ごしたいとか、思ってます?」


冗長っぽく彼女は言う。

普通なら笑える冗談なのかもしれないが、この状況は笑えない。

無為に、

無駄に、

不必要に、

命を奪ってしまったこの状況では


先程僕『ら』が殺した亀ーー亀吉からは血がゆっくりと滲み出している。

じんわり、

じわじわと。

だが、彼の生命が終了しているのは明らかで、動く気配は全くない。


「もう、意気地のない人ですね。よく言うじゃないですか、1人殺すも1000人殺すも取られる首は一つだけ、と」


よく言わない。

なんだ、その恐ろしい諺は。


「それに、この程度で呆けていては、人なんて到底殺すことはーー殺しきるはことはできませんよ。私たちは、道徳とか倫理観とか、そういった見えない鎖で縛られてしまっているのですから……ああ、でも、面倒だな」


小林さんは会話の途中で、ため息をこぼす。

何かを思いついたように、

けれどそれを実行に移すのは気がすすまないように。


彼女は水槽横に併設された小さな棚から、リング状の何かを取り出した。

ブレスレットのような、

銀色に光る何か。

てくてくと僕に近づき、何も言わずに僕の腕に嵌めた。

かちゃり、と差し込み式のタイプのようで、音がした。


「これは、一体?」


疑問を向ける僕に、彼女は笑顔を返す。


「それは理由ですよ。岡平さんが、この子たちを殺しても仕方がないな、と思える理由。最初はしりあるきらーな感じに練習してもらおうかと思いましたが、あなたの性質上、それは難しいそうなので別の手段をとることにしました」


彼女は淡々と説明を続ける。

このブレスレットが何なのか。


「その腕輪はボタン一つで爆発します。これはスペアですが、こんな感じですね」


小林さんは、同型のものを再度戸棚から取り出し、机の隅に置く。

近場のアクリルのような透明な箱をそれに被せた。

携帯を操作し「ぼん」と爽やかな笑顔を作ると、爆音と共にケースの中は煙に包まれた。


「要するにそれは小型爆弾です。一応、万全を期して特殊なケースを被せて飛散を最小限に抑えましたが、基本安全に配慮された爆弾です。対象のみを破壊する、選択的爆弾」


さて、もう状況は把握できましたよね、と彼女は携帯画面を見せながら、僕に言う。

『爆発させますか』

と無機質な文章が表示されている。


つまり、僕は選ばないといけない、とうことだ。

選ぶしかない、ということだ。

亀の命を奪うことにするのか、

自分の命を諦めることかを。


「大丈夫です。無いとは思いますが、万が一岡平さんが自死を選択した場合は、先ほどの300万円でお葬式をしてあげますから」


小林さんは、再度冗長っぽく笑った。

当然、僕は笑えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ