2.依頼
完全犯罪請負人。
復讐補助員。
犯罪コンサルタント。
エトセトラ、エトセトラ。
彼女の異名の数は二つじゃあ足りない。
紹介された『仕立て屋』の女性は、なんというか、落ち着いた雰囲気の若い女性であった。
少し小柄で、丸眼鏡をかけている。
淡い茶色の髪の毛を、シャーベットカラーのヘアバンド的なものでアクセントをいれつつ、綺麗にまとめている。
シックな雰囲気の服屋の店員、あるいは個人経営の喫茶店のバリスタ。そんな風な女性だった。
「あなたが、小林綺壱朧さんですか?」
「はい、いかにも。私が小林綺壱朧その人です」
彼女はむくりと椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
小林綺壱朧ーーその名前から、最初に聞いた時は完全に男だと思っていたが、ここにくる直前に女性であることを教えられ、驚いたものだ。
つけた親の顔が見てみたいものだ。
「では、あなたのお名前は?」
「僕は岡平ーー岡平秀一郎です。宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いしますね」
彼女は明るい笑顔を向けると、自然な動作で僕に握手を求めてきた。
流されるままに、「どうも」と応えた。
「さて、ご依頼の件ですが……この段階ではキャンセル可能ですが、どうしますか?」
彼女の雰囲気が少し変わる。
本当によろしいのですか、と確認の言葉を口にする。
語気が強まり、喋る速度もきもち、ゆっくりになった。
空気が重く感じる。
「いえ、キャンセルはしません。決意は、固めてきました」
「それは重畳」
先程までの可憐な彼女に戻り、再度私に笑顔を向ける。
「ある程度のお話は、ご紹介者の方から聞いていると思いますが、一応確認していきましょうか」
小林さんの眼鏡が、照明を反射して妖しく光る。
「殺したい程憎い人、生き地獄を味合わせたい程憎い人、計二人の人間について、それぞれへのその意思は、今現在もお変わりありませんか?」
小林綺壱朧。
紹介者たる僕の幼馴染の言葉が本当なら、彼女は恐るべき犯罪者なのだ。