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仕立て屋 小林綺壱朧の犯罪  作者: くわっと
1/8

1.雨の夜に

見た目はゆるふわ、

仕事はがちがち。


小林さんは、容赦しない。


「許してくださいっ!」


降りしきる雨の中、僕は謝罪の言葉を口にする。

許されない行為であることは分かっている。

けれど、元を辿れば、あなたがーーあなた達が悪いんだ。

僕だって、本当はこんなことをしたくない。

命を奪うことなんて、したくはなかったんだ。


泣いているか、雨で濡れているのか、

僕にはよく分からなかった。

初めて使った拳銃の反動は思いの外あって、右手はまだ痺れている。


「ほら、あと二回。きちんと狙いを定めて」


小林さんが、私の右手を持ち上げて、呻く『彼』へと標準を合わせる。

苦しみもがき、息も絶え絶えの『彼』に、

無理にやりに、

狙いをつけさせる。


「さあ、このまま引き金を引いて。指に力を入れて、そう、ゆっくりと、確実に」


ガチャリと、稼働音が響く。


「あなたの想いを、殺意を届けるてあげて」


そしてそれとほぼ同時に、曇った銃声が短く轟く。

『彼』はびくんと一度痙攣すると、そこからは動かなくなった。

消えかかっていた命が、完全に消えた瞬間。


「大丈夫。サイレンサーは機能しているから。雨の音もあるし、誰も気づかないわ。ーーさあ、最後にもう一度」


だが、小林さんは止まらない。

僕に促す。

目標が確実に生き絶えるように、

『彼』がより確実に死者になるように。

引き金を引けと、催促する。

死神のように。


僕は思考を停止して、引き金に力を込める。

がちゃり、と累計3度目の稼働音が鼓膜を揺らし、

対象に3発目の鉛玉を届けた。

もう何も聞こえないし、変化もなかった。


「よくできました」


小林さんは僕に優しく笑いかける。

悪魔のように、

魔女のように、

人ではない、何かのように、妖艶に。


彼女の声は、雨にも掻き消されることなく、僕の耳に聞こえる。


「では、残りの『作業』は私がやるから、貴方は安心して眠ってください」


「はい」


小林さんは軽快に僕から拳銃を奪い取ると、スムーズな動作でコートの中に格納した。

僕は短く答えると、とぼとぼと自室へと足を進める。

体が重い。

服が濡れているせいか、人を殺めた罪悪感のせいか。


あぁ、どうしてこんなことになったのだろうか。

僕はなんでこんなことをしたんだろうか。

よく、分からなくなってきた。

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