1.雨の夜に
見た目はゆるふわ、
仕事はがちがち。
小林さんは、容赦しない。
「許してくださいっ!」
降りしきる雨の中、僕は謝罪の言葉を口にする。
許されない行為であることは分かっている。
けれど、元を辿れば、あなたがーーあなた達が悪いんだ。
僕だって、本当はこんなことをしたくない。
命を奪うことなんて、したくはなかったんだ。
泣いているか、雨で濡れているのか、
僕にはよく分からなかった。
初めて使った拳銃の反動は思いの外あって、右手はまだ痺れている。
「ほら、あと二回。きちんと狙いを定めて」
小林さんが、私の右手を持ち上げて、呻く『彼』へと標準を合わせる。
苦しみもがき、息も絶え絶えの『彼』に、
無理にやりに、
狙いをつけさせる。
「さあ、このまま引き金を引いて。指に力を入れて、そう、ゆっくりと、確実に」
ガチャリと、稼働音が響く。
「あなたの想いを、殺意を届けるてあげて」
そしてそれとほぼ同時に、曇った銃声が短く轟く。
『彼』はびくんと一度痙攣すると、そこからは動かなくなった。
消えかかっていた命が、完全に消えた瞬間。
「大丈夫。サイレンサーは機能しているから。雨の音もあるし、誰も気づかないわ。ーーさあ、最後にもう一度」
だが、小林さんは止まらない。
僕に促す。
目標が確実に生き絶えるように、
『彼』がより確実に死者になるように。
引き金を引けと、催促する。
死神のように。
僕は思考を停止して、引き金に力を込める。
がちゃり、と累計3度目の稼働音が鼓膜を揺らし、
対象に3発目の鉛玉を届けた。
もう何も聞こえないし、変化もなかった。
「よくできました」
小林さんは僕に優しく笑いかける。
悪魔のように、
魔女のように、
人ではない、何かのように、妖艶に。
彼女の声は、雨にも掻き消されることなく、僕の耳に聞こえる。
「では、残りの『作業』は私がやるから、貴方は安心して眠ってください」
「はい」
小林さんは軽快に僕から拳銃を奪い取ると、スムーズな動作でコートの中に格納した。
僕は短く答えると、とぼとぼと自室へと足を進める。
体が重い。
服が濡れているせいか、人を殺めた罪悪感のせいか。
あぁ、どうしてこんなことになったのだろうか。
僕はなんでこんなことをしたんだろうか。
よく、分からなくなってきた。