閑話 鈴の初恋
私は高宮 鈴。私には好きな人がいる。名前は川神 刀夜くん。私は彼に一目惚れだった。
あれは一年前のこと…
私は買い出しに近くのスーパーに行く途中だった。
「ここの道から行くと早いんだよねぇ。」
路地裏を通ると近道だったからいつもそこから行っていた。
「ねぇねぇお嬢ちゃん。俺たちと遊ばない?」
私は油断していた。まさか、自分がこんな目に会うなんて…
「すいません。私、急いでるんで…。」
彼らは3人組の若い男達だった。私は関わるまいと逃げようした。でも
「そんなこと言わずに遊ぼうよ。」
と言って手を掴んできた。勿論振り切ることもできず
「でも急いでるんで。」
と言うことしかできなかった。
「行かせねぇょ。ねぇ話聞くだけだからさ。」
「嫌です!!離して下さい!!」
できるだけの抵抗をした。半分は諦めていたけど
「そんなこと言って離すやつがいるとでも?」
私は手を掴んできた男をキッと睨み付けた。
「ふふっ。そそるねぇ。いいよぉいいよぉその顔。ああ、今すぐにその顔を絶望に塗りつぶしたくなっちゃうなぁ。」
私はもう諦めていた。
「じゃあ行こっか。」
「え、行くって?」
「楽しいところ。」
彼達は楽しそうに笑っていた。一方、私はもう諦めていた。
でもその時私の前に彼が来てくれた。刀夜くんが。
「あの~すいません。その娘離してくれませんか?」
彼は堂々とした声でこう発した。
「えっ?」
私はこの時、刀夜くんを知っていた。同じクラスだったから。でも、名前以外かっこいい人思ったとしか認知してなかった。影薄かったし…
「いやぁ、鈴が買い出し行ったっきり中々帰って来ないから心配したよ。」
彼はアイコンタクトで『話を合わしてくれ』と言ってる気がした。
「刀夜くん!ごめんね、この人達につかまっちゃって。」
「いや、ごめん。こっちも一緒に行かなかったのが悪かったから。
ところでお兄さん達、その手離してくれませんか?」
「は?嫌に決まってんだろ。」
後ろの取り巻きが「そうだそうだ。」と言っている。
「じゃあ力ずくでいきますよ。」
そう言ったかと思うと彼はもう男の私の手を掴んでいる手を捻っていた。
「なっ。いたっ!」
手の力が弱くなったので私は振りほどき刀夜くんの後ろに隠れた。
そして、彼に抱き着いた。怖かったから。全身が震えるほどに。でも彼に抱き着くととても安心した。彼は私が震えているのに気づいてか頭を撫でて「よく頑張ったな」と小さな声で言ってくれた。
「じゃあ、僕たちはこれで…」
「待てよ。」
「なんですか?」
「こっちが先に約束したんだよ!その女を渡せ!」
「嫌です!」
「はぁ?ふざけるな!先に約束したのはこっちだぞ。」
「一方的に、ですか?」
「くっ!」
「そもそもあなたたちに責任感はないんですか?この娘と遊ぶんだったらちゃんと何をしても責任をとるという自覚がないと。そうじゃないやつにこの娘は渡さない!」
え?渡してもいいの!?
「は?何言ってんだ?」
「分からないんですか?だからあなたたちに鈴の全てを一緒に背負う責任はあるのかって聞いてるんです!!」
「そんなの必要無いだろ、俺はやりたいからやる、それだけだ。逆にお前はどうなんだよ!」
「僕ですか?僕はもちろんできますよ。彼女が失敗したら僕も一緒に背負うし、一緒に乗り越えます。成功したら一緒に喜びますし…だって大切な友達ですから。」
私はこの時、胸がきゅーっと締めつけられる気がした。
「あ、そう。熱いねぇ。だが、俺たちは先に誘ったんだ!そのことを忘れてもらっちゃぁ困るなぁ。」
諦めの悪い人たちだなぁ。
「この手は使いたくないんだけど…」
刀夜くんは小声で言った。
「確かに貴方達の方が先に誘いました。でも、」
そしてこう良い放った。
「いい加減にしろよ!テメェらがしたのは約束なんかじゃない。相手のことも考えずに自分の思う様にやる。そう言うのを何て言うか知っているか?『自分勝手』だよ。そんな区別もつかないやつはもう一回義務教育をやり直してこい!それが分かったらとっとと…うせろっ!」
刀夜くんは「うせろっ!」をすごく怖い表情で低い声で言った。
「ひぃぃぃぃ!す、すいませんでした~~!!」
後ろの取り巻きが腰を抜かした様にその場で倒れてしまった。
「お前ら、とっととずらかるぞ。」
謝罪も無しにそそくさと去っていた。
「大丈夫だった?高宮さん?」
「うん。大丈夫だよ。ありがとっ!」
「良かった。」
「それよりさっきの声は何?」
「ん?ああ…。『うせろっ!』だろ。これは自分の声を限界まで下げて出した声だよ。おかげでのどが痛い…。」
「へぇー。そんなことできるんだ。」
「邪魔だったかな?ごめん、あいつらが許せなくて。高宮さんがあんなこと言われていい人だとは思わないし。」
あんなこととはたぶん「遊ばない?」ってことだろう。
「えっ?じゃあ最初から?」
「うん。ごめんね。すぐに助けれなくて。」
「ううん。助けてくれてありがとう。あと、そのあの言葉すごくかっこよかったよ。」
「いやぁ、恥ずかしいな…。」
正直、一緒に背負うって言ってくれた時が一番頼もしかった。
「そう言えば私達がこうやってしゃべるのは初めてだね。」
「あ、うん。そうだね。」
「なんか刀夜くんって思ったより優しい人?あ、ごめんね。いつも一人でいるから。もっと寡黙な人だと思ってた。」
「ふふっ、まぁしょうがないね。折角の機会だしこれから仲良くしてくれると嬉しいな。」
「うん。」
「ん。じゃあそろそろ行くね。気をつけてね。あと、油断しないようにね。」
「う、うん。じゃあね!!」
そんなとこまで気づいてたの…。
次の日、学園で会って「私を鈴って呼んでっ!」って言ったら快くOKしてくれた。
とまぁ私が惚れた理由は、「一緒に背負う。」って言ってくれたことでとても単純な一目惚れ…。自分でも分かるくらいのチョロインだ。
そして今、デートの次の日、心晴ちゃんに対抗して恥ずかしながら
刀夜くんとキスしている。
「…」
「…」
「ごちそうさま。」
「いきなり何すんだ鈴!」
「何って…キス?」
「なんで?」
「そりゃ好きだから。ってのと心晴ちゃんに対抗して。私と心晴ちゃんは協力関係にあるの。互いにしたことは報告し合うってなってるんだ!」
「なるほど。まぁ、ほどほどにお願いします…。」
嫌だよ!!ほどほどではすまないくらい愛してあげるんだからね!