5話 デートの誘い
「やったー!修学旅行!」
「うるさいぞ、和也。」
そう、今日から1ヶ月間修学旅行。豪華客船で日本一週で東京から愛知、大阪・・・の順でまわる。僕に休みをくれ!いくら私立でも修学旅行で1ヶ月も時間をとる所はないと思う。
「さて、2日間暇だし部屋でも見るか。」
「ん。」
次の目的地は愛知県だ。そこに着くまで2日間ある。
僕も暇だったので自分の部屋を見に行くことにした。
「部屋広っ!」
いや、広すぎだろ。なんかソファがあるし…すごい長いし…ベッドも一流ホテル並に大きいし…。
これ、一人分?
確かこの船って学校のものだよな。金有りすぎだろ…。
「とりあえず、荷物おいて散策でもするか。」
コンコンと、ドアを叩かれた。こう律儀に叩かれたりすると誰だか分からなくて緊張するとこがある。
「はい…。どうぞ」
「失礼しま~す。」
と律儀にお辞儀をして入ってきたのは…
「なんだ、鈴か。」
「なんだって何よ。私じゃ不満だったってこと?」
と膨れっ面をいきなりくらった。
「いやそうじゃなくて、先生かと思って緊張したってだけ。」
「なんだぁ。って先生にバレちゃ不味い物でも持って来たの?」
と今度はにんまりした顔で…ほんと表情豊かだな。
「いや何も持ってきてないぞ。ところで何か用か?」
「今から一緒に船内散策しない?」
「良いね。心晴も呼ぶ?」
「いやぁ二人だけで行きたいと言うか…アハハ。ダメ…かな?」
「…」
鈴はそう言うと顔をトマトの様に真っ赤にして俯いてしまった。
これはそういうことなのか?もしかして鈴もなのか?いやでも友達としてって言う可能性もあるし…
「…オッケー、じゃあ行くか。」
「うん!」
貴重品を持って一緒に部屋を出た。
「広いねぇ。」
「そうだな…。」
いやいや、広いってレベルで済む様な広さじゃないぞ、これは。何で公園があるんだよ…。まぁ朝のジョギングコース確保したからいいけど。って道場もあるんかい。良かった、刀持ってきといて。まぁ、修学旅行でも2ヶ月間も鍛練サボってたら腕落ちるからなぁ。てか、そろそろ父さんと戦ってみたいなぁ。前回2年前だし…。あれから、色々やって今は、おもりつけて素振りしてるけど勝てるかなぁ…。
その後、場所は移ってショッピングモール地帯に来た。ショッピングモールまであるとは…お金ってこぇぇ…。
「ねぇ刀夜くん。ここの中色々あるしその…1日だけちょっと付き合ってくれない?」
と唐突に鈴から申し出が出た。
「ん?別にいいけど…。」
デートじゃないから良いよな。
「やった!刀夜くんとデートできる!」
「え?デートなの?」
フラグ回収早っ!
「ごめん!嫌だった?」
「ううん、むしろ嬉しいくらいだよ。」
心晴がこれ見たら怒るだろうなぁ。でも別に鈴だったら良いよね。ん?女たらし?そんな言葉知らないなぁ…。
「じゃあ、愛知県の観光終わってからでいいかな?」
「おう、どこに行くかはこっちが決めていいかな?」
「うん…。ありがと…。」
「でも、デートしたことないからテンプレートな感じになっちゃうかもだけどいい?」
「刀夜くんと行くなら、どこでもいいからっ。」
満面の笑みで物凄い言葉が飛んできた。
「そ、そうか。じゃ考えとく。」
笑顔、天使だろ。危うく惚れそうになった…。恐るべし学園一の美少女…。普通の男子だったら今ので告ってフラれてただろうなぁ。
「じゃあまたね。刀夜くん!」
「おう、またな。鈴。」
ふう、明日から、道場で素振りだな。よし、がんばるぞ。四刀流を極めるために。
「と~やぁ。今、鈴ちゃんと何話してたの?」
そこには膨れているかわいい心晴がいた。
「いやぁ、ちょっと約束をな…。」
「ふ~ん…。ねぇ今から刀夜の部屋行っていい?ゆ~~っくり話を聞きたいなぁ。」
「あ、はい。分かりました。」
この後、僕の部屋で正座させられまるで尋問のかのように吐かされた。
「何でそんなことになったのかなぁ。」
「だって鈴、可愛いじゃん?ましてやデートに誘われたじゃん?どこに断る理由があるの?」
「私がいるでしょ!!」
「あっ……。その、ごめん。」
確かにそうだ。心晴に向き合うと言いながら鈴とデートだなんて心晴に対して申し訳ない。僕は立って謝った。
「デート一回…。」
「へ?」
「デート一回で許してあげる!」
「お、おう。ありがとうございます。」
「プランは刀夜が考えてね。」
「もちろん。絶対楽しくしてやるから。」
「ふふっ。ありがと、とーや!」
と言うと心晴が抱きついて来た。
「ちょ、恥ずかしいって。」
「って言いながら抵抗はしないんだ。」
「だって………心晴から良い匂いするし、悪い気はしないし。って言うかむしろ嬉しいくらいだから。」
「そう?じゃあ……えい!!」
「うわっ!?」
何だ?と思ったらベッドに押し倒されていた。
これは…期待して良いのか?
「ふっふ~。今日は刀夜を一人占めだもんねぇ~!」
「もしかして甘えたくなったのか。」
冗談混じりに笑いながら問うと
「だって…」
と、くらい顔て俯いてしまった。
「だって…」
こう言いかけたとこで船内アナウンスがかかって遮られた。
『皆さん、ロビーに集合して下さい。点呼をとります。10分以内に来なかった人は夕飯抜きですよー。』
と、二度ほどアナウンスが流れた。
「行くか。」
「う、うん…。」
結局心晴の思っていることは聞けずじまいだった。と言っても大体の予想はついているけど。おそらく心晴はこの『幼馴染』という関係が壊れるのが怖いのだろう。今まで十数年重ねて来たものが僕にフラれて壊れてしまうかも知れない、とまぁそんなことを考えているのだろう。僕も同じことを考えているためまだ答えを出せてないので。
「はぁ、長年積み上げて来た関係が壊れる、か。」
点呼や色々終わってベッドに入った僕はこう呟いた。
「なんでだろう。確かに心晴のことは好きなはずなのに…」
この『幼馴染』という掛け替えのない関係が崩れるのは難しいとを考えてしまった。
と言ってもわかる人は少ないと思う。短く説明すると『幼馴染』から『恋人』になる、心晴は家族のようなものだ。それを恋人なんて家族を恋人にするようなもんじゃないか。
『好きなはずなのに心の何処かで許してくれない。』
この固定概念を僕の中から取り除かないとまず心晴とは恋人にはなれないだろう。