4話 剣の道
それから、テストが無事終了して結果が出た。
結果は………………学年一位!!!!
キープ出来て良かったぁ。と、満身創痍するのもつかの間。すぐに授業が始まってしまう。僕のクラスのテスト明け最初の授業は体育だった。教室から移動しようとしたとき
「テストどうだった?刀夜?」
と、和也が走って来た。
「ん?和也か…今回も学年1位だったぞ。」
すると和也は急に暗い顔になり
「お、おう。そうか、お、俺は54位だった…。」
最後の方、よく聞こえなかったが…まぁあんまり納得いってないんだろう。
「それより、次、剣道だぞ。」
僕の家は刀の家だ。川神流という独自流派だ。川神家は、女の子しか生まれなかった。だから父は父の友達の子を養子にもらった。それが僕だ。僕の今の父の友達つまり本当の両親は死んでいてもういない。でも、僕は今の生活が嫌いじゃない。むしろ、楽しいくらいだ。僕が養子にもらったのは4才頃で、そこから刀の道をメキメキ成長させた。父は世界中の人間で唯一の三刀流の剣士だ。で、僕は、四刀流だ。ん?四刀流って何か?基本は二刀流なんだけど、後の2本は、回転をかけたり、まっすぐだったりして投げる。基本は2本持って2本投げるってのが通常態勢。これがとてつもなく難しかった。まず、難度の並行思考能力が問われる。一応、父には勝てるようになったけど、それでもやっと勝てるくらいだ。刀一本一本の力の重さが圧倒的に負けている。まだまだ父には勝てないと思う。実際、父は本気を出してないのだから…。もっと頑張らないと…。
「今日は試合だってよ。」
「じゃ、やるか。」
「えぇ…。まぁ、お手柔らかに…。」
「おう!」
「では、始め!」
パシッ!パシッ!パシッ!パシッ!と僕と和也の竹刀の音が体育館中に響く。
うん、いい音だ。
「そろそろ決めるぞ!」
「ま、まだだ!」
すると、さっきより良い音で猛打を繰り出してきた。でも、決して危ないという訳ではない。むしろラッキーだ。人間は竹や藁と違って体力がある。それを急激に使うと必ず休憩時間ができる。そこが狙い目。ひっきりなしに打ってくるのをけなし続け和也が疲れるのを待った。30秒くらい経って和也のペースが落ちて来たので
「川神流刀術一ノ太刀 疾風!」
パンッ! と綺麗な音を立て和也の頭を面で一本。
「い、一本…。」
「はぁ…はぁ…。相変わらずすごいな。めっちゃ痛かったぞ。」
頭をおさえながら訴えてきた。
「悪い悪い。」
父を越えるためにもっと試行錯誤して練習しないと…
力のコントロールもその1つ。まだまだ鍛練が足りないか。
「すごいね、刀夜くん。ついつい見いっちゃったよ。」
と、鈴がどこからともなくやって来た。この学校の体育は剣道のみ男女合同である。
「いやそうでもないかも。まだ和也が痛がってるのを見るとちょっと力が強かったかな?」
「武士に情けは必要ないんじゃないの?」
きっとこれは彼女なりの気遣いなんだろう。遠回しに「余り気負う必要はないよ。」と言ってる気がした。
「でも、これは剣道だからね。本気で戦っても楽しくないだろ。だったら痛くない程度に打つべきじゃないかな?」
「でもそれだと竹刀がぶつかったときに押し負けない?」
た、確かに……
「確かに…。」
「ふふっ。でも、一本取ったときの刀夜くんはかっこ良かったよ!」
意気揚々に語る彼女はその態度が真実だと語っていた。
「そう?嬉しいな。自分の太刀が褒められてるみたいで。」
「太刀筋もだけど、刀夜くんの話なんだけどなぁ。」
と、なにやら小さな声でブツブツ言っていた。一体何を言ってたんだろうか。
このあと俊が一本決めると女子がキャーキャー言ってた。ほんと表の顔は良い奴なのにな…。そのあと一瞬俊と目が合った…正しくは睨まれたのはきっと気のせいだろう。そう思いたい。
そんなことより心晴の事だよな。最近気まずくて一緒に登校出来てないから。早く言わないと…。
授業の終わり際、僕は心晴に夕方、教室に残ってもらうよう伝えた。
そして授業が終わり教室に西日が入る時刻になった。
教室には僕と心晴以外誰一人としていない。なんか西日の入る教室に二人の男女って青春っぽいよね。
「答え、聞かせてくれるのかな?」
と、心晴は言葉に少しの弾みをもったしゃべり方で訊いてきた。
きっと答えがいいものだと思っているのだろう。ごめんな、もしかしたら心晴の思った答えじゃないかも知れない。でも…
「ごめん!やっぱり心晴とは付き合えない。」
「え…?」
訪れる沈黙。心晴はうつむき泣いていた。そして泣きながら弱い声で
「い、一応理由、聞いてもいいかなぁ?」
「理由か…。僕は…僕は心晴を異性として見れてないから…。そんな状態で付き合える訳ないだろ。」
さすがにこのあとに「だから、僕が心晴を異性として見れるようになってから決めても良いか?」なんてとても厚かましくて言えるわけ無かった。更に言えば「とんだヘタレだね。」なんて言われて軽蔑されるのも怖かった。
「え?」
と心晴は呆けた顔をしてこちらに顔を上げた。
「なんだぁ。良かったぁ~~。」
「ん?何で良かったんだ?」
「いやだって、私はてっきり刀夜が私のことが嫌いで付き合いたくないのかな?って思って…。でも、そんな理由だったら私が待てば良いだけじゃん。」
「え?待ってくれるのか?」
「当たり前じゃん。こんなに刀夜の事好きになってるんだから勿論待つよ。」
「そうか。ありがとう?」
なんと返答して良いかわからなくなり疑問形になってしまった。
「ただし、待ってるだけだと何年かかるか分からないから、こっちからどんどん仕掛けていくから。」
「うん。こっちも心晴をちゃんと見れるようにがんばるよ。」
「じゃあ、これからもよろしくね、刀夜。」
「こっちこそよろしくな。じゃあ一緒に帰ろうぜ。」
「うん。」
その後はいつもと変わり無く僕の家の前までは他愛ない話で盛り上がった。僕の家で別れる時に急に心晴が
「刀夜!私の魅力ですぐに刀夜の脳ミソが私で一杯になるようにするんだから!覚悟しといてよ!!」
と、叫んで走って帰っていった。
めちゃくちゃドキドキした。この一言に限る。