7話 剣仲間
「ふぁぁ…。眠い…。」
今は朝のランニングをしている。う~ん。船の中でも空気はおいしいんだなぁ。ふぅ、今日も10キロ走ったし道場行くか。
うん。今日もいい振りだな。おもり60キロにも慣れたしそろそろ父さんと勝負してみよっかなぁ。
「相変わらずいい振りだね。川神くん。」
「ああ、おはよう。矢坂さん。」
「おはよう。」
彼女は矢坂 愛佳。僕と同じ剣士で、彼女は矢坂流の一刀流である。この学園で三大美少女の最後の一人だ。髪はロングで素振りの邪魔にならないのかと時々思う。
「ちょっと一勝負付き合ってくれない?」
「ああ、もちろん。」
「剣は木刀でいい?」
「うん。ルールはどうする?」
「先に相手の体に剣を当てたほうが勝ちでいい?」
「オッケー。」
「勿論本気でやってよ。」
「勿論。でも木刀一本でやっても良い?」
流石に同じ立場じゃ無いと面白くないからな。
「私は良いけど、それでいいの?」
「ああ。負けた方はバツゲームで相手の言うことをひとつ聞くということでいい?」
「異論無し。でも、えっちなのは勘弁ね。」
「ああ、分かってる。じゃあ始めるぞ。」
そう言って僕たちは所定の位置に付いて礼をしてお互い構えた。
「よーい。…………スタート!!」
「行くよ!」
彼女は矢坂流。『電光石火』、『先手必勝』、得意なのはものすごいスピードが武器で相手の間合いに入ること。入られると9割9部切られる。
でも、
「よっ。」
「わっ!」
弱点は急には止まれないこと。要は行動を読んで避ければいいこと。とは言ってもそうそう容易くできることでは無い。一瞬でも気を抜くと間合いにはいられる。
そこからは一時も気を許さない攻防戦だった。
結果は決めの一瞬、気を抜いた時に竹刀で当てられ僕の負け。
「やった!初めて勝てた!!と言うか川神くん油断してたでしょ。最後の一撃こそ一番注意しないと、動きが単調になっちゃうからね。」
「そうだね。気をつけないと…。」
「それでその、バツゲームのことなんだけど…」
「うん、なんだ?」
「その、私のこと名前で呼んで欲しいなぁ。なんて…」
「なんだ。そんなことか。いいに決まってんじゃん。愛佳。」
「ありがとう!」
「じゃあついでに僕のことも名前で呼んでくれないかな?」
「う、うん。と、刀夜くん!」
「うん。ありがと。」
「なんか仲良くなった気がするなぁ。」
「奇遇だな。僕もだ。」
「これからもたまに勝負しよ!刀夜くん。」
「ああ。そうだな。愛佳。今度は気を抜かない様にしないとな。」
彼女とは互いに技を極め合う仲になれたら良いなと思った。
その後僕は素振りの続き、愛佳は集中力を高めるために黙想をしていた。道場には僕の振ってる竹刀の小さなヒュンッという音が響く。
ある程度時間が経ち朝食の時間となったので一緒に食堂に向かうことにした。
その道中にて
「そういえば刀夜くんって心晴ちゃんとその…つ、付き合っているの?」
「いや、付き合ってないけど…。アプローチはすごい受けるけどね。」
「じゃあ鈴ちゃんは?」
「鈴とも付き合ってないけど。って何でそんなこと聞くの?」
「だって2人とも刀夜くんと仲良しだからさ。もしかしたらって思って。」
一瞬、心晴と鈴から告白されているのがバレているのかと思った。一応誰にも言ってはいないが…。
「その考えだと僕と愛佳だって仲良いだろ。そうなったら僕たちだって付き合っているかもしれないことになるけど。」
と冗談混じりに笑いながら問いかけると
「~~っ!~~っっ~~~~~っ!」
顔をゆでダコかのように真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめんごめん!」
「私が刀夜くんとつつつ、付き合っているなんてそんなそんなぁ~~。」
「お、お~い。愛佳さ~ん。」
「はっ!すいません。取り乱してしまいました。」
「お、戻ってきたか。」
「聞かれちゃった。は、恥ずかしい…。」
そうかと思うと愛佳は息を整えてからこう聞いてきた。
「ところで心晴ちゃんと鈴ちゃんから告白されてるのは事実なの?」
「えっ!?そ、それをどこで?」
「鈴ちゃんがメールでね。」
そういえば鈴と愛佳は親友だったな。
「告白されたのは本当。でも…」
「うん?悩みなら聞くよ。」
「実はさどっちを選べば良いのか分からなくって。僕には2人とも同じくらい大好きなんだよ。でも…それなのにどちらかを選ばなければいけないなんて僕にはできないよ。」
「何で?2人とも好きならそれで良いじゃん。」
「何で?だって最終的には一人しか選べないでしょ。」
「それはこの国の話でしょ。外国には多重婚っていうのがあるんだよ。」
「あっ!」
その事をすっかり忘れていた。この国では一人としか結婚できない。もしそれが嫌なら多重婚が認められている外国に移り住めば良いだけの話だ。
「やっと気がついたみたいだね。」
「ありがとう!愛佳。」
「いえいえ。代わりと言ってはあれだけど私もそのときは連れていってくれないかな?」
「えっ?それって…。」
「うん。いきなりだけど私は刀夜くんが好き。貴方の刀が好き、貴方の太刀筋が好き、貴方の性格が好き、貴方の全部が好き。もしよかったら私と付き合って下さい。」
「お、おう。素直に嬉しいよ。でもなんだかややこしいことに…。」
「私から言わしてもらえば、ここで言わなかったらこの気持ちを永遠に伝えられないまま終わるって思ったから。」
「とりあえず2人に言ってみるよ。」
その日の昼下がり、僕の部屋に三人を呼んでこのことを伝えた。
「……と言うことなんだけどいいかな?」
「一つ確認しても良い?」
そう言ったのは心晴だった。
「本当に3人ともちゃんと愛してくれる?」
「安心しろ。そこはちゃんと約束する。僕にとって3人は同じくらい大切な人なんだから。」
「そう、じゃあ私は全面的に刀夜の意見を肯定するよ。鈴ちゃんと愛佳ちゃんとも仲良くやっていきたいし。」
「私も心晴ちゃんと同じ意見です。」
と鈴も肯定してくれた。
「ありがとう。こんな不甲斐ない僕を好きになってくれて。」
「「「うん。これからもよろしくね、刀夜 (くん)。」」」
こうして摩訶不思議な1対3のカップルができたのであった。