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5.異能は便利です。

「え、それ、勇者辛い……」

「でしょう? 『これだから人間は』ってなりましたね」


 魔王就任が確定した俺は、メリィベルさんからざっくりと前魔王が討たれた話とその後の状況について話を聞くこととなった。


 曰く、前魔王を討伐した後の勇者とその仲間達は自分が守っていた人間達に「化物だ」と手のひらを返され、勇者は呆気なく殺されてしまったんだとか。あまりにも酷い話だ。

 勇者が生きていれば『復讐勇者』ルートまっしぐらだなとか思ってしまったけれど、殺されてしまったんだったらどうしようもないよな……。


「よくあるんですか? こういうの」

「いえ、そもそも魔王様が討たれたことがこれまで無かったので……代替わりする前の魔王様も、寿命で亡くなられたと聞いています」

「魔王も寿命で亡くなるんですね」


 魔力的な何かで、寿命とか無いって思ってたんだけど……。


「そこは魔王様の種族によるんですよ。魔王様は恐らく『魔王』の姿としてハイ・エルフを思い浮かべていたのですよね? その影響を受けて、魔王様の身体は転生に伴ってハイ・エルフとして再構成されたのだと思います。ですから、現在の魔王様はエルフ並の寿命はお持ちだと考えて下されば」

「えっ、そこ思い浮かべていたもの採用されちゃうんだ……」

「そうですね。少なくとも種族に関しては大きく影響されます。魔王様の場合は異能が【高貴なる創造権】ですから、かなり細部まで影響を受けていると考えられます。身体能力だとか、頭脳だとか。他にも思い浮かべていたものがあるのなら、それも今のお身体に反映されているとお考え下さい」


 俺は常日頃から魔王の姿を思い浮かべていたわけだけど、そうじゃなくても転生者の中にあった近いものが採用される感じなのかな。確かに『魔王』って映画とかにもたまに出てくるし、誰しもある程度はイメージ出来るってことかな。

 普通は多分ざっくりと種族だけイメージを基準に決められるんだろうけど、俺の場合は異能の影響を受けてモロに反映されたみたいだ。良かった、美しくないエルフ爆誕しなくて。


「俺、頭脳明晰の魔力無限大な魔王をイメージしていたんですけれど」

「まあ! それは素晴らしいですわ!」


 メリィベルさんはメイドさんに指示を出して、何冊か本を持ってきてくれた。タイトルを見た感じ、全部魔導書って奴だ……って、もしかしなくても俺、自動翻訳機能搭載してる?


「うわ、読める……」

「素晴らしいですわ! 通常は文字を覚えるところから始まるのですよ」

「ですよね。そんな気がしました」


 良かった、頭脳明晰設定付けといて。

 これで王道を外すとか言って脳筋バカ設定とかにしてたら詰んだわけか、王道を行ってて本当に良かった。王道万歳。


「やっぱり魔王は頭良くないと、ですよね。魔力も問題無さそうで安心しました。少々の無茶は出来そうです」

「あー、でも『無限大』は流石にありえないと思いますので、最初は限界値調べるところから入った方が良いかもしれません……様子を伺っている限り、魔王様の魔力量は限りなく無限に近いものだとは思いますけれど」


 どうやら【高貴なる創造権】も魔力によって発動するものだったらしい。自分の見た目と能力は別としても、俺はメリィベルさん含む城中の人々の服を変化させているから、今の時点でそれなりに魔法を使用していることになる。でもピンピンしているってことは、そういうことだ。


「とりあえず、魔道書を読んだ上で限界値確認やってみます。ところで、城の外に出るのは大丈夫なのですか?」


 エルフ並の寿命ということは、かなりの長寿確定だ。「一生城の中にいろ」とか言われたから苦痛で仕方が無いんだけど、大丈夫かな。

 そう思って聞いてみたら、メリィベルさんはニコリと微笑み、「勿論です」と言ってくれた。


「良かった! ジャパニーズの民はそれなりの確率で城に引きこもりたがる、と書に記されていたのですが……!」

「うん、先輩方が大変なご迷惑をお掛けしたっぽいことがよく分かりました」


 引きこもりは別に日本人だけじゃないと思うんだけどな。割合的に日本人に多いんだとは思うけれど。

 あとコレ、絶対『社畜』についても記されてるに違いない。「働きすぎる奴もいるけど早死するから注意しろ」的なことが書かれているに違いない。俺はどっちも違うけどさ。


「俺はそうでもないです。確かに、ガンガン外に出ていくタイプではありませんが。だから、ご安心下さい……それから、もしよろしければ、早速外に出てみたいです」


 そう返せば、メリィベルさんは嬉しそうに手を合わせて笑っている。これ多分、前魔王は引きこもりタイプだったんだな。超内弁慶野郎だったんだな、そうなんだろ。


「勿論です! 支度しますから、少々お待ち下さい!」


 メリィベルさんは再び部屋の外に飛び出していく。何だか申し訳なく思いつつ、俺は彼女が戻ってくるのを待った。





「……もしかしなくとも、荒れてます?」


 メリィベルさんと、護衛のお兄さん達と一緒に外に出た俺が目の当たりにしたのは、ひび割れた大地とボロボロの住宅街だった。


「そうですね。かなり」


 答えてくれたのは護衛のウェアウルフ(人狼)さんだった。さっきまで甲冑男だったんだけど、今は軽く武装してるだから、顕になった黒い毛並みが本当に格好良い。


「治安が悪いとかありますか? 俺、注意しといた方が良いですか?」

「治安は良くはありませんが、襲われる心配は皆無かと。それに、我々が着いていますから、問題ありません。ご安心を」


 城にいる者達、特に兵士職の方々は厳しい実技試験を乗り越えた者ばかりで、一般の魔族では太刀打ちできない存在なんだとか。

 前魔王、変態趣味と引きこもりが目立ってるけど、完全な実力主義というある種の平等性は保ってはいたみたいだな。テンプレだと種族間差別があったりするものだけど、城の人達を見た感じだと男性はそこまで偏ってる様子も無かったし……女性はやたらエルフばっかだったけどな。やっぱり変態だ。

 とはいえ実力や容姿を理由に強制的に拐われた人とかいそうだし、一度確認しておいた方が良さそうだ。


「ここからは畑ですね。枯れてしまっていますけれど、かつては賑わっていたのですよ」

「!? が、餓死者が出たりとか……?」

「出てますよ。人間どもが毒を撒いたせいで、ほとんどの畑が使い物にならず……」


 スラム街にしか見えないメイン街を通り、荒れ果てた畑に足を踏み入れる。耕作放棄された場所には、草さえ生えていない――むしゃくしゃした俺は、『実り豊かな畑になれ』と畑に向かって念を送ってみた。


「魔王様!?」

「よし成功。畑再生は迷惑じゃないってことですね」


 目の前の畑が輝き、現れたのは青々とした作物。この世界の作物がさっぱり分からないから、とりあえずトマト生やしといた。多分トマトは毒にはならないと思うし……。


「なるほど……魔力量の確認に使えそうですね。片っ端から畑を豊かにしていきましょう」

「魔王様、お体に触りませんか……?」

「無くは無いですが、今のところは問題ありません」


 これはちょっとだけ疲れる。畑を豊かにして、作物を生やして、成長させるところまでやってるから、なのかな。やっぱり魔力無限大では無いみたいだ。


「全部だと流石に倒れますかね? いや……魔力量確認のためなら、倒れるまで……」

「おやめ下さい! どうかご自愛下さいませ!!」

「今の時点でとんでもない魔力量だということは分かりました! 分かりましたから!!」


 分かってはいたけど、『倒れるまで畑再生』はメリィベルさん達に全力で拒否されてしまった。


「! 畑が……!!」

「おお、これは一体どういうことだ……!?」


 俺達の話し声突然トマトが生えたことに気付いたみたいで、農家のドワーフさん達がすっ飛んできた。


「こんにちは、魔王です」

「ッ!?!?」

「突然ですが、こちらの畑で作っていた物を教えて下さい。全部トマトじゃ困るでしょうから」


 適当に挨拶して、普通の作物を教えてもらって。手当たり次第に畑を再生した俺に待っていたのは、ほどほどの疲労感とメリィベルさんからの「威厳無さ過ぎ!!」というお叱りの言葉だった。

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